オスカーくんがMLBではなくNPBを目指す理由

それにしても、なぜMLBではなくNPBを目指すのか。

「MLBは世界最大の野球リーグですが、僕は日本の野球文化とスタイルに惹かれます。日本人選手が規律、正確さ、チームスピリットを重視する姿は、僕の野球観に合致する価値観です。

僕にとって野球とは、パワーや名声のためだけのものではなく、基本をマスターし、試合を尊重し、自分よりも大きなものの一部となることです。

NPBは努力とハートが才能と同じくらい重要で、僕はそこに深いインスピレーションを感じているから、NPBの選手になりたいのです」

オスカーくん本人に選手としての特徴を聞くと「打者としてはコンタクトヒッターとして優秀で、投手としては堅実なコントロールと優れたメカニクスを持っています。また、60ヤード(約55メートル)を6.0秒で走ることができます」(写真/本人提供)
オスカーくん本人に選手としての特徴を聞くと「打者としてはコンタクトヒッターとして優秀で、投手としては堅実なコントロールと優れたメカニクスを持っています。また、60ヤード(約55メートル)を6.0秒で走ることができます」(写真/本人提供)

プロ野球を目指すには非常に厳しいケニアの環境だが、オスカーくんは「野球人気は少しずつ広がっている」と話す。

ケニア野球連盟(BFK)の報告によると、ナイロビ、メルー、ミゴリ、マクエニなど20州で野球は活発となっていて、メルーにはケニアで唯一本格的な野球場もあるそうだ。

5月22日で20歳になったオスカーくん。残された時間は決して多くはない。ただ、もしその夢が叶わなかったとしても、将来、ケニアからプロ野球選手が生まれる土壌は着実に育っているといえる。オスカーくんはそんなケニア野球の未来のためにもプロを目指すという。

今年も7月12日から2日間にわたり第3回ケニア甲子園大会が開催予定。資金を集めるためのクラウドファンディングが6月から「READYFOR」にて開始される。リターンのひとつにJ-ABS エグゼクティブ・ドリームパートナーである松井秀喜氏のケニア甲子園大会の様子。今年も7月12日から2日間にわたり第3回ケニア甲子園大会が開催予定。資金を集めるためのクラウドファンディングが6月から「READYFOR」にて開始される。リターンのひとつにJ-ABS エグゼクティブ・ドリームパートナーである松井秀喜氏のサイン色紙の提供があるそうだ(写真提供/J-ABS)
ケニア甲子園大会の様子。今年も7月12日から2日間にわたり第3回ケニア甲子園大会が開催予定。資金を集めるためのクラウドファンディングが6月から「READYFOR」にて開始される。リターンのひとつにJ-ABS エグゼクティブ・ドリームパートナーである松井秀喜氏のサイン色紙の提供があるそうだ(写真提供/J-ABS)
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「僕はハードワークを恐れないし、適切な指導を受ければプロレベルに到達できると信じています。

僕は自分のためだけにこの夢を追いかけているのではありません。たとえ手が届かないと感じても、努力すれば夢を叶えられるということを母国の子供たちに伝えたいのです」

野球はまだまだ世界のマイナースポーツ。あらゆる国の子供たちが白球を追いかけている……そんな世界がいつか実現することを、野球ファンのひとりとして願うなら、彼の夢を決して笑ってはいけないのではないか。

取材・文/武松佑季