支援級は特別な免許や研修も必要がない

関東で複数の支援級を受け持ったことがある、A先生に話を聞くことができた。

「より障がいの重い子どもが通う“特別支援学校”では、教員免許のほかに“特別支援学校教諭免許状”が必須ですが、支援級は必要ないんです。

免許はおろか、定められた研修さえないことがほとんどです。中には、校長・教頭の方針で研修を設けている所もありましたが、本当にごく一部の学校だけかと。

何も知らず通常級と同様に授業を進めようとする教員に『発達に応じた声かけはしていますか?』と聞いても、『担任は私。私が決めます』と強気で突っぱねられたこともあります。できれば1〜3ヶ月、最低でも1週間の研修を義務付けるべきではないでしょうか」(A先生)

支援級を担任する先生には研修もない学校が多いという(画像はイメージです。写真/PhotoAC)
支援級を担任する先生には研修もない学校が多いという(画像はイメージです。写真/PhotoAC)

このままいけば、小学校の支援級は「箱だけ用意された機能不全の“名ばかり支援級”が増えていくのではないか」とA先生は懸念する。

「支援級の拡充より先に、文部科学省や行政には、この現状を知ってほしい。今のままでは、人的にも教育の質的にも悪化する一方だと思います。

また、担任を持つ生徒数が少なくても、一人に要する時間、気力、対応力は月々にいただく手当1万円では割に合いません。給与や手当ても見直してほしい。『早く通常級に戻りたい』と嘆く先生の気持ちもわかります」(前出・A先生)

写真はイメージです(PhotoACより)
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現在、支援級を担当する教師の特別支援学校教諭免許状の有資格者の割合は31.1%(令和3年度文科省調べ)だ。中には、療育の職員やスクールカウンセラーに介入してもらう学校もあるようだが、それも一筋縄ではいかない。前出のFさんは言う。

「娘が通う学校の教頭は、外部職員の介入を徹底的に拒むんです。療育の職員の介入もお願いしたが応じてもらえなかった。

教頭のキャリアアップの王道は校長への昇進です。外部の人間を入れ、万が一問題を指摘され対処できなければ、その道を閉ざされるかもしれない。子どもの成長・発達を促すことよりも、自分の出世のことしか考えていないように見える。

教育委員会にも掛け合いましたが、一度応答があったきり、その後うやむやにされています」
(前出保護者・Fさん)

問題は、学校内での課題やトラブルが可視化されづらいことだけではない。

「支援級への入級には、医師の診断が必要です。でも、児童精神科医の数が足りておらず、ほとんどの地域で診察まで最短でも1ヶ月、半年〜1年待つこともあります。発達障がいの子を持つ友人から、支援級への入級について相談を受けていましたが『予約が取れたのが4ヶ月後なの』と嘆いていました。

結局、診察待ちの間に不登校になってしまい、今も学校に通えずにいるようです。国は“支援級の改革”を進めていますが、その前に児童精神科医を増やすべきでは」(前出保護者・Hさん)

文科省は目指すべき令和の日本型学校教育として「児童生徒の学習進度や個性に合わせて学びを深める」個別最適な学びを提言している。しかし、個別最適な学びを享受するための環境を整えなければ、意味がない。

すべての子どもたちに適切な教育が行なわれる日はやってくるのだろうか。

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取材・文/山田千穂