セーフティーネットの役割を担う高校が消えてゆく
――どのような学校が淘汰されていくのでしょうか。
もちろん、底辺からです。先述の髙田教授は、超進学校が高倍率を維持する一方、中学校までの学習内容の学び直しに重点を置く高校や、外国籍で日本語の指導を要する子たちの受け皿となるはずの高校など、「セーフティーネットの役割を担う高校」と位置付けられた学校の存続が危ぶまれていると指摘し、子どもたちの「進路保障の危機」であると言います。
子どもたちの「選択肢」を増やすために、彼らが高校で学ぶ「権利」が犠牲になるならば、それは本末転倒と言わざるを得ません。
また、地域唯一の府立高校が廃校になるケースも多く見受けられます。もちろんそうなれば、交通費や通学時間の増加により、高校に通えない子たちが出てきます。
私が住む、土佐町(高知県)のような中山間地域に住んでいると、私立高校の無償化が実現すれば、郡部の高校はどんどん淘汰されていくという現実が見えてきます。
地域で唯一の高校がつぶれると、学齢期の子どもは都市部の学校に通うことになります。親にとってみれば、子ども2人を都市部の高校に通学させるくらいなら、引っ越したほうが安上がりになります。
そうなると、まずは子どもがいなくなる。子育て世代がいなくなる。そして移住の候補地としても人気が無くなり、やがて地域そのものが無くなるでしょう。だから、維新モデルの私立高校の無償化は、都会への一極集中をさらに加速させる可能性が高いと考えます。
そうかといって、私立高校の無償化が全てダメというわけではありません。愛知県私立学校教職員組合連合のように、高校の統廃合や経営陣による授業料の値上げに反対し、公立と私立の募集定数比率をしっかりと守った上で、私学助成の拡充を独自で勝ち取ってきたケースもあります。
他の先進国並みに教育予算を拡充し、少子化を逆手に取って少人数学級制を進め、純粋な「学校選択制」を進める。私立高校無償化に関する議論が、そんな方向に向かったら良いと思います。
参考文献
髙田一宏 『新自由主義と教育改革:大阪から問う』岩波新書、2024年。
写真/shutterstock