書店員が語る
<東京バンドワゴン>の魅力

 この度刊行される小路幸也さんの『ザ・ネバーエンディング・ストーリー』は<東京バンドワゴン>シリーズの二十作目。我南人がなとの亡き妻・秋実あきみが語り手のスピンオフ作品です。二〇〇八年四月に第一作『東京バンドワゴン』(単行本は二〇〇六年四月)が文庫化され、以来、ほぼ毎年四月は新刊の単行本と既刊の文庫が同時に刊行されています。ファンにとってこの<東京バンドワゴン>の単行本・文庫本の同時刊行は嬉しい年中行事となっています。
また、各文庫の「解説」を日本全国の書店員が順繰りに執筆し、作中に実在の書店員と同名の人物が登場するというのも、このシリーズのお馴染みの趣向。今号では、二十作目を迎えたシリーズを記念して、「解説」を執筆し、作中にご自身の名前が登場する宇田川拓也うだがわたくやさん、狩野大樹かのうひろきさん、渡邉森夫わたなべもりおさんのお三方に、<東京バンドワゴン>シリーズの魅力を存分に語っていただきました。

構成=増子信一/撮影=山口真由子
協力=わいがや 神保町店

書店員が語る<東京バンドワゴン>の魅力『ザ・ネバーエンディング・ストーリー 東京バンドワゴン』小路幸也_1
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シリーズの新刊発売は今や年中行事

── 第六作『オブ・ラ・ディ オブ・ラ・ダ』の文庫の解説で田口幹人みきとさん(元・さわや書店フェザン店店長、現・合同会社「未来読書研究所」共同代表)が「毎年四月になると、一冊ずつ増えてゆく『東京バンドワゴン』シリーズを平台で展開するのが習わしとなっている」と書かれています。皆さんのお店ではいかがでしょうか。

宇田川 毎年出る時期が決まっているというのはファンの方にはわかりやすいと思いますし、実際毎年楽しみにお店に来てくださる方がいらっしゃるので、それに備えてご用意するのは、やはり嬉しいですね。
 といっても、我々は本を仕入れて置いているだけなのですが、お客様の嬉しさを一緒に味わわせていただいている感じで、売場の人間としても楽しみな時期ですね。

狩野 私が解説を書いたのは五作目(『オール・マイ・ラビング』)だったので、それからもう十五作も出ているんだと感慨深いものがありますね。四月が年中行事的になっているというのはもちろんありますけど、もともと棚にずっと入っている商品なので、新刊に限らず、一作目をお薦めすることもすごく多いんです。二十年近く経っても一作目がちゃんと棚に差さっていて、それをまだ読んでない方にお薦めできるシリーズというのは、他にはあまりないんじゃないですか。

渡邉 四月というと、もうひとつ本屋大賞という大きなイベントもあって、書店にいらっしゃる人が多い時期なんですね。そこに〈東京バンドワゴン〉の刊行も重なって、店頭が賑やかになる。このシリーズの装幀も鮮やかなイラストで飾られていますから、いっそう賑やかな感じになりますね。

狩野 二十作目というのもすごいと思いますけど、作中の時間も毎年少しずつ進んでいて、登場人物たちも確実に歳を取っている。これも、こうした家族を中心としたシリーズにはあまりない設定ですよね。

宇田川 だって、勘一かんいちは八十九歳でしょ。

狩野 最初、小学生だった子どもたちが、結婚する歳になったり。

宇田川 堀田ほった家の人たちが、まるで親戚の子とか近所の知り合いの家族とか、そんな感じの付き合い方になっていますよね。

狩野 毎年一冊ずつ読んでいると、自分も同じだけ歳を取っているのであまり気にならなかったんですけど、今回改めて一作目から通して読むと、みんなこんなに成長しているんだというのに気づいて、ちょっと不思議な感じになりました。

作中に自分と同名の人物が登場!

── 先ほどおっしゃったように、狩野さんは五作目の解説を書かれていますが、十作目(『ヒア・カムズ・ザ・サン』)に、遺品整理の仕事をしているあおの友だちとして登場されています。初めて自分の名前を作品の中で読んだときはどんな感じがしましたか。

狩野 最初、全然気づかなかったんです。誰かにいわれて、慌ててFacebookで小路さんに「ありがとうございます」と送ったのはよく覚えています。
 そのときは、ちょうどテレビドラマ(「東京バンドワゴン〜下町大家族物語」、二〇一三年十月~十二月、日本テレビ系で放映)が放送されていたときで、亀梨(和也、ドラマの青役)君の友だちなんだよ(笑)、みたいな話をアルバイトの子にしました。ともかく、堀田家にするっと入り込めている感じが不思議でした。

── 宇田川さんは、第十四作『アンド・アイ・ラブ・ハー』に、美登里みどりの同僚の長谷部 ( はせべ ) の元夫で作家という役柄で登場しています。

宇田川 新人賞を取った作品一冊だけ出して、その後活躍していない。しかも我南人の言葉を借りれば、「LOVEゆえに」というところで、すごくいい役をいただいたなと思っています。
 自分が親しんできた物語の世界に入ることができたのはとても嬉しいですね。私はもともとミステリーが好きなので、出られるなら、残酷な殺され方をする被害者とか、超悪役とかでもよかったのですが、小路さんがいい役をあててくれたので、感謝しています。
 作品の中で、けっこう頻繁に「宇田川」の名前を出してくれているので、家族や身内も「オオーッ」と感心してくれて、いい記念になりました。

── 渡邉さんは最新刊『ザ・ネバーエンディング・ストーリー』で、秋実と同じ児童養護施設〈つつじの丘ハウス〉で育ったという設定です。

渡邉 施設を出た後、働きながら大学へ通って、現在は総合商社の社長秘書。すごい優秀な人で、自分と重なるところは性別ぐらいしかないんですけど(笑)。
 ぼくの名前は割と珍しいので、これまで同じ名前の人と会ったことがなかったのですが、それがいきなり本の中に「渡邉森夫」という名前が出てくる。思わずそのページを写真に撮っちゃいました。

── 皆さん解説を書かれていますが、書くに当たって苦心されたことは?

狩野 解説を書かせていただくときはいつもそうなんですけど、読みながらどんどん思ったことをとにかく全部書き込んでいきます。昔はノートに書いていましたが、今は携帯のメモ。とにかく、気になったことを全部書いておくわけですが、それをどうつなげていくかが、大変ですね。

書店員が語る<東京バンドワゴン>の魅力『ザ・ネバーエンディング・ストーリー 東京バンドワゴン』小路幸也_2

── 狩野さんは第五作で、その前に四人の方が解説を書かれています。宇田川さんは第九作(『オール・ユー・ニード・イズ・ラブ』)ですから、先行に八人いるわけですね。

宇田川 ええ、できるだけ内容が重ならないようにというのはありました。それから、作品世界のベーシックなことを書いても屋上屋を架すことになるので、何か自分なりの読み解き方とか、トリビアとか、そういったところを少しでも盛り込めるようにというのは意識して書くようにしていました。成功しているかどうかはわかりませんけど。

狩野 本当にそう思います。成功しているか失敗しているかは全然わからないけれど、書店員として書けることを書こうと思いました。書店員だったらこう書くとか、書店員の仕事に合わせてこうだなという、なるべくそっちに寄せて書きました。

── 渡邉さんが解説を担当されたのは第十五作の『イエロー・サブマリン』。

渡邉 先に多くの方たちが書かれているのでけっこう考えましたね。書店のことや売り方を書いている人、作品に対する愛を書いている人とか、いろいろな傾向がある中で、その隙間をどうやって狙っていこうかと、やはり考えましたね。

宇田川 あまり内容に踏み込むと、ネタを割ってしまう。

渡邉 解説から読むという人もいますから、ネタバレにならないようにどう内容を伝えていくか。さっきもいったように、いろいろな隙間を考えて、ここはまだ掘れるなと思ったところを書くようにしました。

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