ありふれた日常こそ、非日常を生み出す資源になる

――しかし、すべての地域に富士山や寺社のような文化資源があるわけではありません。そうした地域ではどうすれば?

日本には“何もない”地域なんてないんです。革命のなかった国だからこそ、建築・風習・思想など、多くの文化が今も残っています。

たとえば、富山県射水市の「内川」沿いには、どこか懐かしい港町の風景があります。こうした街並みやお祭りなど、地域に根ざした日常こそ、外国人にとっては特別な“非日常”です。

さらに、立ち飲み文化や居酒屋での小皿料理など、日本の何気ない食文化も人気です。チェーンの居酒屋でさえ、外国人がごった返しています。

日本のベニスといわれる富山県射水市の内川 (ACより)
日本のベニスといわれる富山県射水市の内川 (ACより)
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――“何もない”と感じていたのは、自分たちだけかもしれませんね。

ええ。自分たちにとって当たり前だからこそ、価値に気づきにくい。でも、その“当たり前”こそが、外から見れば魅力にあふれている。

観光とは本来、文化や暮らしにふれる行為です。それをどう丁寧に伝え、共感を育むか。文化を「守ること」と「楽しむこと」の両立が、これからの観光には求められます。単なる撮影や消費ではなく、地域とのつながりを感じる旅こそが、記憶に残る観光になるはずです。

取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

観光"未"立国~ニッポンの現状~ (扶桑社新書)
永谷 亜矢子
観光"未"立国~ニッポンの現状~ (扶桑社新書)
2025/3/1
990円(税込)
216ページ
ISBN: 978-4594098773
営業、編集、PR、プロモーション、社長業に大学教授。リクルートで、東京ガールズコレクションで、よしもと他で鍛え上げた〝叩き上げのマーケ脳〟を持つ著者が初めて書き下ろした観光業界のリアルを描いた衝撃作。 「日本の観光業界は、こうなっていたのか!」 ◇ 過去最高の水準を更新するも「地方が稼げていない」現実 2024年、訪日外国人の人数は3686万人、観光消費額は8兆円を突破。インバウンドの高まりは過去最高記録を更新しました。折からの円安で日本人による国内旅行ニーズも過熱しており、「観光」は日本で数少ない成長産業へと進化を遂げています。 でも、果たしてこの国は本当に観光で稼げているのか。観光業が今後の日本を支える基幹産業委として発展していくための下地やサポートの仕組みは行き届いているのか。こうしたことを冷静に分析すると、まだまだ問題山積な現状があります。 特に地方においてこの傾向は顕著。 地域に魅力があっても情報発信ができていないため、観光客に「見つけられない」。 日本の地方や田舎に興味を持つ人は世界中にいるのに、二次交通が脆弱すぎて地方まで観光客が「来てくれない」。 地域の魅力を理解する体験コンテンツがない。 観光にまつわる補助金の使い道や制度そのものが実態に即しておらず、せっかくの補助金や助成金が活きた形で「使われない」――。 さまざまなキャリアを積み、現在も富山県、山梨県富士吉田市、三重県伊勢市をはじめ8自治体と一緒に観光の現場に日々立ち、生粋のマーケターである著者には、日本の観光業界にまつわる課題点がハッキリと目に映っています。 このままでは、もったいない。何が問題か知り、解決への具体的な施策を打っていくことが必要。そんな思いから執筆に至ったのが本書です。 〝机上の空論〟で終わらない、実践的な思考法とノウハウが詰まった本書は、観光従事者はもちろん、マーケティングを必要とするすべての人にとって大きな武器となるはず。 日本の観光業が、その担い手たちがきちんと稼げる観光経済圏を作るには、何を知り、何をなすべきなのか。この1冊を読み終わったとき、その答えがきっと脳内に宿るはずです。
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