文化財は「見せる」から「伝える」へ
――レスポンシブル=責任、ですね。こうした意識を促すには、どんな施策がありますか?
歴史や文化への理解を、知的好奇心をくすぐる形で刺激するのがよいと感じています。
例えば近年、文化財とテクノロジーを融合させたプロジェクションマッピングが注目されています。建物に映像を投影して空間を演出する手法ですが、文化と結びつけることで体験価値が高まります。
こうした取り組み自体は以前からありはしましたが、多くは文化財に花柄などを投影する“装飾的”な内容が中心でした。
――それがどう変わったのですか?
愛知県岡崎市の「成道山 大樹寺」では、非公開の杉戸絵を襖に映し出すという試みがありました。
ここは徳川家康が自害を思いとどまったという、日本の歴史において非常に大きな意味を持つ場所なんですが、プロジェクションマッピングでありがちなただの花柄の演出にするのではなく、当時の世界観を再現した内容で、文化財の意味そのものを伝える画期的な仕掛けになっていました。
――見せ方の質が観光体験の深さを左右するんですね。
そう思います。そして、こうした取り組みは文化財に限りません。京都府京都市にある「建仁寺 両足院」では、僧侶が日常的に行なっている座禅や掃除といった修行を、体験プログラムとして提供しています。
――日常の延長線上にある観光ということですね。
そう。観光客にとっては非日常でも、提供する側にとっては無理のない“日常”。こうした体験こそが、訪日外国人にはおおいにウケるのです。「文化×観光」はとても重要な考え方で、地域のポテンシャルを引き出す仕掛けとしてうってつけです。