不幸ばかりが続く展開だが……
「やはり第一に、これが事実を元にしたストーリーだからというのが大きいでしょう。第1週目では、ヒロインとそのお相手の男の子に不幸が降り続く連続で、言ってみれば“不幸のご都合主義”のような状態でしたが、これらが基本的には事実なので、そこに対するツッコミは起こりません。
また、展開自体はベタですが、そのシーンごとの登場人物のセリフや演出が非常にていねいに練られているからこそ、退屈しない要因になっているのかと。
特に第5回では、やなせたかしが作詞した『手のひらを太陽に』『アンパンのマーチ』の歌詞を思わせるようなセリフが効果的に使われていて、これを王道の展開に乗せるからこそ、そのメッセージ性が際立っていました」
下手にこねくり回すことなく、ベタな王道を突き進んでいるのは、やなせたかし夫婦の人生の物語は、それだけですばらしいドラマになると制作陣が確信しているからだろう。
そういった背景は、NHKが明かす制作秘話からもうかがえる。
「『あんぱん』はまず脚本家の中園ミホ氏にオファーして、それから誰をドラマの題材にするのかを考えていったと言います。それで、中園氏がやなせたかしさんという案を出した直後に、制作統括の倉崎憲氏もリュックからやなせさんの本を出したそうなのです。
中園氏はやなせさんの詩に感銘を受けて手紙を送り、10~15歳くらいまでは文通をして、実際に面識もあったと明かしています。これだけ制作陣側にモデルとなった夫婦へのリスペクトの気持ちがあるからこそ、視聴者を納得させる作品が作れるのでしょう」
実話を元にしていくならば、この先夫婦にはさらなる苦難が待ち受けている。アンパンマンの助けを待つたくさんのキャラクターたちのように、視聴者もまた、アンパンマン誕生の瞬間を心待ちする展開になっていきそうだ。
取材・文/集英社オンライン編集部