日本経済の復活に賭ける

中国共産党の支配がいつまでも続かないとの見方がありますねと話題を振ると、声を潜めて賛同を示した。

「中国経済は1960年代や1970年代に戻るかもしれない」と暗い見通しを持つ。それとは対照的に、周りでは日本経済への関心が高まっていると感じる。

「今、日本株に熱視線が注がれています。中国人主体のファンドは、ケイマン諸島で登録し、実働部隊は香港とシンガポールの両方にというのが典型です。こうしたファンドのアナリストは中国が拠点のことが多いですが、彼らもいまや中国マーケットは見ずに、日本市場を見ているんです。今はこうした人々は日本に出張ベースで来ていますね。こういう人たちをどれだけ日本に定住させられるかが重要だと思いますよ」

写真はイメージです(写真/Shutterstock)
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その言葉はまさに予言のようだった。2024年1月中旬には、「日本株に連動する上場投資信託(ETF)に、中国の投資家が殺到し、取引は一時停止された」というニュースが駆け巡った。

折しも、同月下旬には、米ブルームバーグ通信が、インド株式市場の時価総額が香港市場を初めて抜き、世界4位に浮上したと報じた。

程なくして、東京株式市場の時価総額が上海市場を抜いたとの一報も続いた。景気低迷で中国や香港市場が冷え込んでいることを改めて印象付けた。

今後は中国マネーの流入がさらに加速すると見る。

「中国出身の経験豊富なベンチャーキャピタリストたちが日本に来る準備を進めています。中国でもとても有名な人たちです。中国もしくは海外で良好な教育を受けた、価値観も西欧に近いような人たちで、年齢的にはまだまだ働ける世代。今年はそういう動きの出る最初の年になりそうです。まだまだ初期段階で、種を蒔いているような感じです。こういう人たちは、ITやアニメなど文化関連の分野への投資を考えています」

写真はイメージです(写真/Shutterstock)
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こうした米国など他国のパスポート保持者を含む中国新移民は、日本企業に活力をもたらすきっかけになると考える。日本の大手企業はIR(投資家情報)を英語でも出すが、これからはより中小企業も出していくべきと訴える。

「新たな地政学的状況からすると、今後20〜30年で日本は『黄金期』をまた迎えるのではないかと見ています」

そう言い切った。

文/舛友雄大

『潤日(ルンリィー): 日本へ大脱出する中国人富裕層を追う』(東洋経済新報社)
舛友 雄大 (著)
『潤日(ルンリィー): 日本へ大脱出する中国人富裕層を追う』(東洋経済新報社)
2025/1/22
1,980円(税込)
336ページ
ISBN: 978-4492224243

日本に押し寄せる中国“新移民”とは何者なのか?

●中学受験で躍進する中国人富裕層の子どもたち!
●湾岸タワマンをキャッシュで爆買い!
●現金を日本に持ち込む地下銀行ルートの実態!
●銀座のど真ん中を一望できる会員制クラブ!
●北海道ニセコ町を開発する香港系投資家の勝算!

「潤」は、最近中国で流行っている言葉で、さまざまな理由からより良い暮らしを求めて中国を脱出する人々を指す。もともと「儲ける」という意味だが、中国語のローマ字表記であるピンインでRunと書くことから、英語の「run(逃げる)」とダブルミーニングになっている。「潤日」コミュニティ――、多くの日本人が知らぬ間に、中国や日本、そして世界の変化に応じる形で急速に存在感を増しつつある。
この全く新しいタイプの中国人移民たちをつぶさに訪ねて耳を傾けると、その新規性や奥深さを痛切に感じるとともに、日本の政治、経済、社会に見逃せないほどの大きなインパクトをもたらしつつある現状が見えてきた。

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