伊丹が死の直前に遺した、「ラストメッセージ」
漫画『あぶさん』のモデルと称される永渕洋三は言う。
「伊丹さんはとても頭の切れるスマートな方でした。その一方で、自分の意思を曲げない強い精神力を持った方でもありました。僕なんかと違って煙草は吸わない、酒は呑まない。本当に真面目な方ですからね。あの当時、我々佐高野球部の先輩、後輩も、高校を出て上京すると、神宮外苑でアルバイトをしました。みんな伊丹さんにはお世話になっているんですよ。僕の場合は、社会人入り、プロ入り、そのすべてを伊丹さんのお世話になっていますから、本当に頭が上がりません」
恩師である伊丹が守り、そして発展させた神宮球場が、創立100周年を前に再開発されることが決まった。その一方で、再開発に対する反対運動も起こっている。一連の出来事について、永渕に尋ねる。
「うちの息子もお世話になっていますから、決して他人事ではないですから……」
そうなのである。現在、明治神宮野球場の場長である永渕義規は、洋三の息子である。再開発に関する記事を整理していて、現在の球場長の名字が「永渕」であることを知った。さらに資料を集めていくと、その彼が「あぶさん」こと、永渕洋三の息子であることを理解した。永渕家にとって、伊丹との縁はさらに強固なものとなっているのだ。
改めて、父・洋三に「神宮再開発問題」について問うた。
「僕としては、賛成でも反対でもなく、どちらかというと“勝手におやりなさい”みたいなもんで、古くなって数々の問題が生じているのであれば、それを直そうと考えるのは当然のことだと思っています。ただ、息子はこれからたくさんの資料を作ったり、いろいろと仕事が忙しくなるみたいですね。彼はもう55歳ですから、新球場が完成する頃には定年を迎えるぐらいですよね。はたして、どうなるんでしょうね」