伊丹が死の直前に遺した、「ラストメッセージ」

漫画『あぶさん』のモデルと称される永渕洋三は言う。

「伊丹さんはとても頭の切れるスマートな方でした。その一方で、自分の意思を曲げない強い精神力を持った方でもありました。僕なんかと違って煙草は吸わない、酒は呑まない。本当に真面目な方ですからね。あの当時、我々佐高野球部の先輩、後輩も、高校を出て上京すると、神宮外苑でアルバイトをしました。みんな伊丹さんにはお世話になっているんですよ。僕の場合は、社会人入り、プロ入り、そのすべてを伊丹さんのお世話になっていますから、本当に頭が上がりません」

恩師である伊丹が守り、そして発展させた神宮球場が、創立100周年を前に再開発されることが決まった。その一方で、再開発に対する反対運動も起こっている。一連の出来事について、永渕に尋ねる。

(撮影:佐藤創紀/朝日新聞出版写真映像部)
(撮影:佐藤創紀/朝日新聞出版写真映像部)
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「うちの息子もお世話になっていますから、決して他人事ではないですから……」

そうなのである。現在、明治神宮野球場の場長である永渕義規は、洋三の息子である。再開発に関する記事を整理していて、現在の球場長の名字が「永渕」であることを知った。さらに資料を集めていくと、その彼が「あぶさん」こと、永渕洋三の息子であることを理解した。永渕家にとって、伊丹との縁はさらに強固なものとなっているのだ。

改めて、父・洋三に「神宮再開発問題」について問うた。

「僕としては、賛成でも反対でもなく、どちらかというと“勝手におやりなさい”みたいなもんで、古くなって数々の問題が生じているのであれば、それを直そうと考えるのは当然のことだと思っています。ただ、息子はこれからたくさんの資料を作ったり、いろいろと仕事が忙しくなるみたいですね。彼はもう55歳ですから、新球場が完成する頃には定年を迎えるぐらいですよね。はたして、どうなるんでしょうね」

『神宮球場100年物語』(朝日新聞出版)
長谷川晶一
『職業・打撃投手』
2025年2月21日発売
2,420円(税込)
304ページ
ISBN: 978-4022520364
明治神宮外苑の再開発で歴史ある景色が一変しようとしている。数々のヤクルト関係の著書もあるファンとして神宮球場に通い続ける著者が、神宮にゆかりのある人々をたずね、その100年の記憶をたどり神宮の過去、現在、未来を描く。
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