木村社長と“あんぱん”の思い出「祖父が教えてくれたあんぱんの可能性」
“あんぱんをアレンジする楽しさ”を初めて知ったのは、木村社長が幼少期の頃だったという。
「小さい頃はよく祖父の家に遊びに行っていたのですが、少し日が経って硬くなったあんぱんをおいしく食べる方法を祖父が教えてくれました。
あんぱんに少し水を吹きかけて、トースターで焼き、それから無塩バターをたっぷり塗って食べるんです。祖父の遊び心をあんぱんを通じて学んだ瞬間で、今でも印象に残っています」
また、木村屋に入社してからも、あんぱんに関する印象深い体験をしたそう。
「入社当時、あんぱんを昔ながらの製造方法で作る機会がありました。筑波山で天然の酵母菌を採取し、そこから酒種を作って、機械やミキサーを使わずに手ごねで一からあんぱんを作ったのですが、天然の酵母菌はなかなか生地に定着せず、途中でカビが生えてしまってダメになってしまうものも多かったんです。
20数個の生地の種を作っても、1個しか成功しませんでした。そういった苦労の末にできたあんぱんのおししさは今でも覚えています。安全衛生管理上、このような昔ながらのあんぱん作りはなかなかできないので、貴重な体験でしたね」
最後に、連ドラ「あんぱん」に登場する作品「アンパンマン」に関する思い出も聞いてみた。
「幼少期の頃に住んでいた家の近くに、『アンパンマンショップ』があって、よく通りがかっていたので、すごく身近な存在でした。さらに大人になってからアンパンマンを見て気づいたことがあります。
主人公のアンパンマンは、敵である『ばいきんまん』のしている悪い行いをやめるように言うことはあるのですが、ばいきんまん自体のことを決して“悪いヤツ”だとは言わないんです。
やなせさんの描く“人を偏見で決めつけて、勝手に憎まない”というアンパンマンのやさしさは、子どもの頃から知らないうちに学んでいたんじゃないかと思います」
――あんぱんの元祖である木村屋には、世代を超えたストーリーと、伝統を守り続けながら進化する姿勢があった。そんな“あんぱん”から生まれたヒーロー「アンパンマン」ができるまでを描いた連ドラ「あんぱん」のストーリーにもぜひ注目したい。
取材・文:瑠璃光丸凪/A4studio