名刺に描かれていたイラストが『パンどろぼう』の出発点だった
累計430万部を超える『パンどろぼう』シリーズ、同作の主人公は、美味しいパンが大好きで、パン屋からパンを次々に盗む“パンのどろぼう”だ。
少し間抜けで茶目っ気たっぷり、思わず笑ってしまう「まさか!」の表情を見せながら、周囲を巻き込んで成長する姿などが幅広い読者層から支持を集めている。
いま、いちばん読まれている絵本作者・柴田ケイコ氏に話を聞くと、『パンどろぼう』の人気の秘密が見えてきた。
——『パンどろぼう』はどのようにして生まれたのでしょうか。
柴田ケイコ(以下、同) 2020年に『パンどろぼう』を発売する前から、しろくま×食べ物の絵本シリーズを描いていました。私自身食べることが好きで、食べ物シリーズが得意だったんです。
あるとき、名刺を交換したKADOKAWAの編集の方が、私の名刺に描いてあった、パンをかぶったしろくまのイラストに注目してくださったんです。実は、この絵が“パンどろぼうの結城さん”というタイトルで、『パンどろぼう』誕生のきっかけになりました。
——動物がパンをかぶる、というのが斬新です。発想の原点は?
私自身、パンが大好きで、毎朝欠かさずにパンを食べています。今朝もチーズを乗せた食パンを焼いて食べましたし、パン屋さんで“季節のパン”が売っていると思わず手が伸びます。
そんな毎日を過ごす中で、ふと“動物が帽子みたいにパンをかぶったら、おもしろいのでは?”と急に降ってきて“描きたい”と思ったのがきっかけです。
——『パンどろぼう』では、しろくまではない動物がパンをかぶっていますね。
最初、いろいろな動物が脳内を駆け巡りました。お猿さんもひとつの案でしたが、ただ、動物は体が見えるとなにかわかってしまうので、パンがすっぽりかぶれるサイズ感がいいな、と。
さらに、どろぼうというイメージに合うのはなんだろう?と考えた結果、しろくまよりも作中に出てくる動物がぴったりだ!と思い、決めました。
——柴田さんにとって“忘れられない絵本”との出会いはありますか。
私は、絵本作家になる前からイラストレーターとして活動しているのですが、駆け出しだった頃、ある絵本に出会いました。当時、たまたま立ち寄った古本屋で長新太さんの『ぼくのくれよん』(講談社)を手にとり、ページをめくった瞬間に衝撃を受けました。
ゾウがクレヨンを持っているのですが、そのクレヨンがゾウに合わせて大きく描かれているんです。見開きでドーンとクレヨンが並んでいる。見せ方ひとつでこんなに変わるんだ、と。
それまで私は、童話、昔話が絵本の世界だと思っていたので、世界が広がった瞬間でもありました。長新太さんの絵本は今でもよく読みます。