採用において─企業研究サイトの現状

要するに、企業で行なわれず、専門性や職務要件が明確な仕事─スポーツ選手や、いわゆる資格制度のあるような専門職─に就くための切符は何か? という選抜要件は、明確なのです。学閥という考えは一部にありますが、まずはその職業的専門性の試験をパスしていることなのです。

先の寿司職人や美容師の例のほかにも、たとえば理学療法士などを思い浮かべてもいいでしょう。「企業研究」サイトにあるような、学歴の話題はほぼないでしょう。学校ごとの国家試験の合格率ランキングなどの情報は出てはいるものの、それも就職先の病院を企業組織に準じるものとした場合、学閥の影響がありやなしやという程度の話です。

したがって、学歴という情報をありがたがるのは、企業への就職という前提があってのことなのです。しかも、企業のなかでも、現場社員というより人材の選抜や登用に携わる経営陣や人事にとってです。企業は業績を上げるために存在していますから、そこに参画することで利益をもたらし得る人材がほしいのはもっともとも言えます。

というわけでここからは、企業が学歴という情報をいかに扱ってきたか? について、人材フローに沿って見てみましょう。

企業に就職する際に、労働する前の教育の履歴を参照して、その人(の能力)を見立てようとすること。これが企業社会における労働の登竜門=就職プロセスの1つであることは周知の事実でしょう。ある最大手人気商社への就職を狙う人の多くが、次のような「企業研究」サイトの情報を事前にチェックするのはもはや常識とも言えます。

ちなみにこちらのサイトには、役員面接に備えて、役員の出身大学一覧もご親切についています。(「“三井物産の採用大学レポート”学歴フィルターとTOEIC点数を公開。採用をもらうための最低条件とは?」(大手の“学歴と年収”リサーチ、2022年11月21日))

加えて、この「学歴と年収の研究室─面接官のホンネ 大手の“学歴と年収”リサーチ」サイトは無償でオープンな情報提供ですが、こうしたサイトを運営する大手は、より情報商材化している場合もあります。

たとえば就活情報サービスなどを展開するワンキャリア社のサイトでは、会員登録しないと「〇〇社 採用実績徹底解剖」(「【140名の狭き門】三井物産の大学別採用実績を徹底解剖:三井物産編」(ONE CAREER))というシズル感のあるコンテンツを見ることができません。個人情報と引き換えに、やっと手に入れる「機密情報」なのです。

「大手の“学歴と年収”リサーチ」(2022年11月21日記事をもとに作成)
「大手の“学歴と年収”リサーチ」(2022年11月21日記事をもとに作成)

実績という「過去」の他人の情報を見たところで、「いまの」自分ができることは限られているわけですが、人気企業への就職が狭き門である(選抜的である)以上、その企業の選別傾向(評価軸)を知っておくことは、選んでもらわなきゃならない個人側にとって合理的な行動と言えましょう。