「いつかひとり息子がひとりぼっちになってしまう」不安を消した出会い

夫婦は今年で81歳。いつかひとり息子がひとりぼっちになってしまう、という不安にいつも襲われていた。しかし10年ほど前に、その不安に対する転機が訪れていた。

それは、原田さんとの共演をきっかけに、虎太郎さんとも仲よくなった俳優Aさんがいるからだと、原田夫婦はそろって口にする。

「私と共演して、こたを舞台に誘ってくれた俳優のAさんと出会えるまでは、すごい不安だった。俺たち夫婦でその話をしたことはないけれど、もう絶対に俺たちが死んだら、こいつ1人だよなって。周りの人にこたは恵まれているから、知り合いたちが面倒見てくれるだろうとは思ってはいたけど」(大二郎さん)

「Aさんはとても素敵な方で、こたにとても優しい。舞台が決まるとこたと台本の読み合わせをしてくれたり、稽古にも根気強く付き合ってくれるんです。それもあって、こたも舞台に立つことができました。将来の頼みはAさん。私たちの2人目の子どものような感覚でもあるの。一緒にこの家で、こたとAさんのごきょうだいとかでシェアハウス的に暮らしてくれれば嬉しい」(規梭子さん)

原田大二郎さんと息子・虎太郎さん
原田大二郎さんと息子・虎太郎さん

原田大二郎「まだまだ死ねないね」  

取材後、筆者に豪華な手料理を振舞ってくれた規梭子さん。配膳の準備は、原田さんが主になって、虎太郎さんも手伝う。

温かい料理を頂いているうち、虎太郎さんは時折手が止まり、途中で横たわってしまった。2時間にわたるインタビューに、言葉通り、全力で応じてくれた疲れが出てしまったようだ。

恐縮する筆者に規梭子さんは「たまにはこういう刺激がないと、毎日家にいるだけだと仕方がないから」といい、横たわる虎太郎さんの隣に座ると、頭痛を訴える虎太郎さんの頭を優しくマッサージし続けた。

全力で取材に応じてくれた虎太郎さん(写真/集英社オンライン)
全力で取材に応じてくれた虎太郎さん(写真/集英社オンライン)

原田さんは「あなた(筆者)に心配してもらいたいんですよ(笑)」と笑いを混ぜてくれる。規梭子さんは「大二郎さんが明るくいてくれるから、救われています。そのおかげで大丈夫だって思えるし、笑顔が多いわよね」と。

その通り、取材中、原田さんが幾度となく会話に冗談を入れ、規梭子さんと虎太郎さんも一緒に声を出して笑った。

虎太郎さんの次の目標は、6月に公演される山本周五郎著の『柳橋物語』に出演し、長崎県の五島列島で再演される『ちっちゃな星の王子様』で主演すること。5月には稽古が始まる予定で、「楽しみにしている」と話してくれた。

2023年に主演した舞台『ちっちゃな星の王子さま』の時の虎太郎さん(写真提供/原田大二郎氏)
2023年に主演した舞台『ちっちゃな星の王子さま』の時の虎太郎さん(写真提供/原田大二郎氏)

取材の最後、虎太郎さんに、両親への想いを聞いた。

「両親に感謝することはしょっちゅうです。本当に小さい頃から、よくこの僕を育ててくれたなっていうのがあるから。やっぱりそこはすごい感謝します」

夫妻は、「そんなこと思ってたの?」と口にし、驚きと喜びが入り混じった表情で息子を見つめた。

一方、原田さんは3月23日にはパーカッショニストの佐藤正治さんと6年続けている『朗読とパーカッションの新世界』を「STAR PINE’S CAFE」(吉祥寺)で公演、9月にも豊岡演劇祭で朗読の舞台を控えている。

「まだまだ死ねないね」といい、家族を和ませるのだった。

 〈前編はこちらから『「玄関の外で『お前死ぬ気か』って…」俳優・原田大二郎の病を抱えた息子が見つけた一筋の光』〉 

取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班