「このおっさん、何を言っているんだ?」

ただし、観察する場合も、あまり観察していると思わせたくはない。普段は見ていないようでいて、話をしてみると「この人は自分をよく見てくれている」と思わせるようにしたほうがいい。あからさまに凝視されることを選手は嫌がる。そのつもりがなくても、監視されているように感じるからだ。私の場合は、なるべく遠くから選手たちの練習を見るようにしている。

適切な質問を発することができなければ、信頼関係につながらない。とはいえ、言いすぎても選手を成長させることができない。高度なやり取りのように聞こえるだろうが、これは積み重ねで誰でもできるようになる。

当初のうちは、選手も本音を言ってくれないかもしれない。しかし、それでもやり取りを続けるべきだ。そのうち、選手も慣れてくる。やがて、この人であればしっかりと耳を傾けてくれるかもしれないと思うようになる。

ZOZOマリンスタジアム
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ポイントが的確であることが選手に評価されても、ポイントは多少ズレていても一生懸命見てくれていることを選手に評価されても、はじめはどちらでもいい。コミュニケーションを重ねていくうち、双方が成長していけば、質の高いコーチングになる。

コーチングは、選手の感覚に寄り添わなければならない。

「このおっさん、何を言っているんだ?」

選手にそう思われたら信頼関係は構築できない。選手の感覚に迫るには、観察するだけでは足りない。「代行」のスキルが必要になる。代行のスキルを身につければ、その選手のタイプがわかってくる。

具体的な代行のスキルの要諦は、次の3点である。

「相手がどう思っているか、相手になったつもりで考える」
「相手の視点に立ち、自分の言葉がどう受け止められているか考える」
「相手を理解するために必要な知識を学び、コミュニケーションを重ねる」

つまり、一方通行の独りよがりにならないことだ。代行は、はじめは間違ってもいいと思う。相手のことを理解するのは、そう簡単なことではない。ただ、間違ったときに素直に間違いを認めることができれば、信頼関係は崩壊しない。

「おまえはこう考えていると思ったけど、そうじゃないのか、なるほどね」

間違ったことを言って信頼関係が崩れるのではないか、変なことを言ったら選手に見限られるのではないか。そうした恐怖は感じなくていい。