的確な目標を引き出す「質問」「観察」「代行」
若手を育成するとき、注意している大方針がある。
プロ野球の世界に入って来るのは、高校を卒業したばかりの18歳の少年もいる。部活動で野球をやってきたため、メニューはすべて指導者から与えられてきた。つまり、自分で何をすればいいか考える習慣が身についていない。
私は選手に主体性を身につけてもらうことを第一に考えているが、始まりの始まりは、コーチングではなくティーチングが入っていいと思う。第2章で凧揚げの話をしたが、若手が自分で考えられる習慣を学ぶまでは、監督やコーチが糸を引っ張ってあげなければならない。習慣が身についていない若手に主体性を求めた結果、2023年に練習しない選手が出てきたこともお話しした。
高卒でプロ野球に入ってきた選手は3年、大学、社会人から入ってきた選手は少なくとも1年はティーチングを行うつもりだ。ベテランのように気を遣う必要はないので、思い切ったことを言うかもしれない。
ただ、始まりの始まりを除けば、すべての選手に対して行うのはコーチングが最適だ。
そのとき、ひとつだけ意識しているのは、自分の経験を語らないことだ。私自身が選手時
代も、監督、コーチ、先輩の経験談の押しつけほど退屈なものはなかった。できるだけ選
手の口から出るように仕向けていく必要がある。
たとえば、体力をつけてほしい投手に対しては、こう質問してみる。
「大谷(翔平選手)とおまえとどこが違うと思う?」
「ぼくは二刀流じゃないですね」
この答えは、核心から遠いためスルーする。
「なるほど、そうだな。ほかにはないか?」
「そうですね、あんな160キロを超えるスピードボールは投げられません」
やや近づいた。そこで、関連づける質問をしてみる。
「今のところそうだな。その原因はどこにあると思う?」
「才能ですね」
「それを言ったら終わりだよ(笑)。目に見える違いはないか?」
「ああ、身体が違いますね」
そういう言葉が出てきたらこっちのものだ。そこを深掘りする。
「なるほど。じゃあ、どうすればいいと思う?」
「ウエイトですね」
「ウエイトといってもいろいろあるけど」
「どこを鍛えれば速くなるか、調べてみます」
「おう。いつやる?」
「すぐにでも」
このやり取りは実際に起こったことではないが、ここで必要なのは、課題に気づかせるための質問の引き出しを数多く持っていることだ。