大谷翔平、佐々木朗希のような特別な選手ではない選手の育成

このケースで言うと、パワーのある大谷翔平選手を引き合いに出せばいい。同じスピードボールを駆使する投手でも、佐々木朗希投手を引き合いに出しても、この課題にはたどり着かない。適切な目標や比較対象を選手に持たせるために、チョイスが必要になる。

育成でもっとも重要な「目標設定」をするときに、届きそうもない目標を設定してしまうと、到達できずに意欲を失っていく。勝ち負けなど自分でコントロールできない目標を設定してしまうと、モチベーションを保てなくなる。

誰かと比較するにしても、自分でコントロールできる「対象」をターゲットに置くようにする。先ほどのケースの大谷選手の場合は、二刀流ではなく身体にフォーカスする。ただ、もう少し届きそうな「人」との比較のほうが、選手にやる気を出させるには効果的かもしれない。大谷選手は突出しすぎているため、私のチョイスが適切かどうかはそれぞれでお考えいただきたい。

夜のZOZOマリンスタジアム
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目標設定も、選手が「ちょっと頑張れば到達できそうな目標」に設定する「センス」を身
につけなければならない。

これは、選手によって異なり、選手の現時点のレベルによっても異なる。そう考えると質問する側は、膨大な質問の引き出しを用意しなければならない。これは一朝一夕に蓄積できるものではない。物を言うのは日々の積み重ねだ。

質問の引き出しが多数あっても、どのように質問すればその選手から話を引き出すことができるか、モチベーションを高められるかは別の問題だ。その選手と日常的に雑談をしたり、その選手を平素から観察したりしておかなければ不可能だ。

選手の優れた点、劣っている点、改善すべき課題など、さまざまなポイントを的確に把握し、伝えるべきポイント、気づかせたいポイントを言語化することなく、質問によってあたかも自分で発見したように認識させるのだ。

こう言うと、難しいことのように聞こえるかもしれない。最初から深い洞察はできなくても、しっかりと選手を観察していれば、雑談のなかから観察の成果が出る。選手はその言葉を聞いて何かを気づき、そこから信頼関係が生まれる。信頼関係さえできれば、選手は自分が考えていることを語り始める。この監督、コーチは自分のことをあまり見ていないと思われてしまえば、選手は口を閉ざす。