インフレの進行で配当金は2倍に拡大
こうして見ると、値上げが進んで企業の稼ぐ力が高まる一方、投資家ばかりが儲けを出し、企業の内部留保が膨らむという構造的な問題点が浮かび上がる。
企業が値上げに踏み切る理由として多く挙げられるのは、原材料費や輸送費などの高騰によるものだ。消費者としては、食品製造メーカーも同じ悲鳴を上げているように見えるが、実状はやや異なる。
例えば、乳製品は最近になって価格が高騰した典型的な品目の一つだが、ウクライナ危機によって牛の飼料代が高騰したことや、円安の進行、エネルギー価格の上昇などによって牛乳の価格は上がり続けた。とある国内大手乳製品メーカーは2019年度の原価率が76%ほどだったが、2023年度は84%。原材料費が上がったことで、製造コストはたしかに上昇している。
しかし、商品を販売するために必要な経費である「販管費率」(この比率が低いほど経営効率が高い)は20%から13%ほどに下がったために本来的な収益性は失われておらず、得られた利益は株主に還元されている。一株当たりの配当金は約2倍に拡大しているのだ。さらに内部留保と呼ばれる利益剰余金は3割増加した。
この間の平均年収の上昇率は3%ほどだ。
こうした傾向は乳製品メーカーに限らず、菓子や冷凍食品など大手食品メーカーに共通している。
今の日本は経済学者のトマ・ピケティ氏が唱えた「r>g」という不等式にぴたりと当てはまる。「r」は資産運用によって得られる収益、「g」は経済成長率を表す。つまり、資産運用によって得られる富は、労働によって得られる富よりも早く成長するというものだ。
企業は賃金アップや設備投資に資金を投じるのではなく、株主還元を重視している。ただし、これには仕方のない面もある。需要そのものが膨らんでいるとは言い難いからだ。