ブラックボックス化している「制作過程」と「配給過程」について
さかのぼること2021年12月、西廣弁護士は、伊藤氏から映画化の相談があったとき、「必ず内容を確認させてほしい」と伝え、伊藤氏はそれを了承したという。しかし実際には伊藤氏から映画に関する連絡はなく、西廣氏はそれから2年後の23年12月に、サンダンス映画祭で伊藤詩織さんの映画が上映されるというネット上の記事で映画が完成したことを知ったという。
驚いた元弁護団が伊藤氏に説明を求めたところ、12月19日に話し合いの場が持たれ、伊藤氏から映画内に防犯カメラの映像を使用していることを告げられたため、弁護団はホテル側の許諾を得るよう改めて要請。
弁護団は、同月25日、重ねて配給会社であるスターサンズと伊藤詩織氏に内容証明を送付し、ホテルの許諾が得られない場合、映画使用は誓約違反にあたるため、当該映像を使用しないように通知。また仮に承諾を得られぬまま使用する場合、伊藤氏の訴訟代理人であった元弁護団の顔や姿が写っている映像や画像、声等を使用することを禁ずることを伝え、回答を求めたという。
それに対し、同作品の製作会社であるスターサンズの代表取締役の四宮隆史氏から、「弊社としては、本件書面でご指摘の防犯カメラ映像を同映画において使用しない方向で、すでに対策を検討中です」と回答期限最終日の1月10日にファクスで返信があった。
西廣氏は、「スターサンズの社長でもあり弁護士でもある責任ある立場の人からの通知であったので」と当時の安堵感を振り返る。また伊藤詩織氏からもこれと異なる内容の連絡はなかったという。
しかし、その「言葉」は、守られることはなかった。その約一週間後、サンダンス映画祭で同作品は世界へのお披露目がされたわけだが、そこでは、西廣氏が懸念した防犯カメラの映像も、また「それを入れるならば使うことを禁ずる」と通達した元弁護団の映像や音声も含まれた形でワールドプレミアを迎え、そこから海外57の国と地域へと展開されていくのである。