「上映する前に、必ず内容を確認させてほしい」と伝えるも…

伊藤詩織氏は2015年4月、元TBS局員の山口敬之氏から性暴力を受け、2017年9月、東京地裁に民事訴訟を提起した。2022年には最高裁が山口氏の上告を退け、同意なく性行為におよんだと認定し、山口氏に約332万円の賠償を命じた二審・東京高裁判決が確定している。

一方、山口氏は当時、準強姦容疑で書類送検されたものの、東京地検は2016年に山口氏を嫌疑不十分で不起訴処分としていた。伊藤氏は翌年5月に不起訴不当を訴えたが、東京第6検察審査会も同年9月、不起訴相当と議決している。

伊藤氏の初監督作品『Black Box Diaries』(ブラック・ボックス・ダイアリーズ)は、こうした出来事の渦中にある性暴力サバイバーの自身を、ジャーナリストとして記録したドキュメンタリーである。

映画『Black Box Diaries』ポスター
映画『Black Box Diaries』ポスター
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ところが2024年10月21日、本作について内容の修正を求める記者会見が開かれた。会見を行なったのは、伊藤氏の民事裁判を担当していた弁護団のうち、西廣陽子弁護士と加城千波弁護士。

そして、伊藤氏を中傷する投稿にTwitter(現X)上で「いいね」を押した元衆院議員、杉田水脈氏を相手取り損害賠償請求訴訟を行った際の、伊藤氏側の代理人だった佃克彦弁護士。

現在、佃弁護士は、西廣・加城弁護士の代理人となっている。つまり、3人はもともと伊藤氏を護っていた人々なのである。

会見の場で3名は、裁判に際して「裁判以外に同映像を一切使用しない」旨の誓約書を交わしたうえで伊藤氏と代理人が入手した民事訴訟の証拠である「ホテルの防犯カメラ映像」が、映画『Black Box Diaries』で使われていることを明かした。「裁判以外に同映像を使用しない」という誓約書にサインしたのは、伊藤氏と西廣弁護士だ。

なぜ話し合いで解決できず、会見で公にすることとなったのか。西廣弁護士と佃弁護士に聞いた。

「伊藤氏との信頼関係が揺らいでしまったというのが発端です。振り返れば訴訟中、伊藤氏が、弁護団会議に突然カメラマンを連れてきて撮影しようとしていたことが何度かあり、弁護団が注意をしたことがありました。

後に何度か伊藤氏から映画化を示唆する話がありましたが、2021年12月に正式に、映画化の相談を受けました。その際、外に出してはいけない映像を映画で使うことがないよう『映画として上映する前に、必ず内容を確認させてほしい』と要望を伝え、伊藤氏に了承してもらいました。

しかし伊藤氏から作品が完成したという連絡はなく、2023年12月、配給会社であるスターサンズのホームページ上にて、本作がサンダンス映画祭で上映されるという記事を見つけて驚き、改めて伊藤氏に面会と説明を求めることになりました」(西廣弁護士、以下同)

西廣弁護士ら弁護団は、その面談の場で伊藤氏に「ホテルの防犯カメラ映像の使用は誓約違反であること」と、「使用するならばホテルから許諾を得る必要があること」を伝えた。スターサンズに対しても内容証明を送付すると、「防犯カメラ映像を使用しない方向ですでに対策を検討中です」とのファクスが届いた。

そのため、懸念点は払拭されたかと思っていた2024年7月、西廣弁護士は本作のメディア向け上映会が東大本郷キャンパスで行なわれることを知ったという。伊藤氏から事前に連絡はなく、このとき、主催者からたまたま連絡を受け、鑑賞することになった。