わずか2か月足らずで破談
そもそも、いつからこのような議論が進められていたのだろうか? 自動車産業に精通するジャーナリストの桃田健史氏に話を聞いた。
「2社は昨年春から、次世代技術や車両の相互補完など、グローバル戦略の中で技術や実務の協業についてワーキングチームを作り、段階的に議論を進めてきました」(桃田氏 以下、同)
ホンダと日産は、昨年3月15日に戦略的パートナーシップに関する覚書を締結し、8月1日には基礎技術の共同研究契約も締結していた。競合他社ではあるものの、かなり協力的な関係を築いていたようだ。
「そうした中、ホンダの三部敏宏社長と日産の内田誠社長の間で、経営統合にまで踏み込んだ議論が行なわれました。『経営統合の可能性に対するチャレンジ』だったとも言えますが、結果的には2社間の溝が深まった印象です」
そもそも、今回の経営統合の発端は、日産の経営状態の悪化にある。
協議の撤回が発表された会見で、日産の内田社長は、2025年3月期の最終損益が800億円の赤字になる見通しを示した。
2020年には、1年間の純損益が6712億円の巨額赤字となり、それ以降、同社の経営状況を不安視する報道が相次いでいた。
巨額の赤字を計上してからわずか4年程度で経営統合を検討するほど、同社の経営は危機的状況だったのだろうか?
「2020年時点では、事業構造改革計画として『Nissan NEXT』を掲げ、初期的なV字回復は実現しました。しかし、その後の施策の実効性が欠けていたのです。
カルロス・ゴーン体制の『負の遺産』を拭いきれなかったことが、現在の経営難の要因と言えるでしょう」
1999年、資本関係を結んだフランスの自動車メーカー、ルノーから送り込まれたゴーン氏は、経営トップとして一時は日産を破綻寸前の危機から救った。
しかし、2018年には金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)で逮捕・起訴され、翌年には保釈中に中東・レバノンへ密出国を果たした。
内田社長らは、ゴーン氏の影響を排除しようとしたものの、今期800億円の最終赤字という結果を見れば、その試みは十分な成果を上げるには至らなかったのかもしれない。