日本と海外で異なる、リミナルスペースの取り入れ方とは
リミナルスペースの概念を取り入れたコンテンツは何も「8番出口」だけではない。
「8番出口」よりも先にリミナルスペースの概念を広めたのは、海外の創作都市伝説である「THE BACKROOMS」だ。
元々は海外の掲示板でリミナルスペースの画像に「これは現実から迷い込んでしまった異空間だ」という設定や物語をネット民たちが付け足したのが始まりで、その後は共同創作サイトを中心にファンが様々な設定を作り上げて人気となり、2020年ごろから一大ムーブメントを起こしたのだ。
「『THE BACKROOMS』も『8番出口』同様、リミナルスペースの概念を万人受けするようにマイルドにしたことで知名度を得ましたが、設定と物語を付与するという方法は『8番出口』とは対照的ですね。
一昔前の日本のホラー界隈では、嘘か本当かという真偽性を拠りどころにした実話怪談が人気でしたが、近年はホラークリエイターの皆口大地さんや映画監督の寺内康太郎さんが手がけている『フェイクドキュメンタリーQ』のように、真偽性よりも“怖いとは何か”という概念的な部分を追求する作品が好まれている印象があります。
実はこれは18世紀のイギリスから始まった怪奇・幻想小説の源流に近い考え方です。
これらの小説は時とともに大衆から『そうは言っても理由が欲しいよね』と怪物や幽霊といった恐怖の正体が付与されましたが、恐怖の気配を味わうリミナルスペースのよさを活かしている日本の作品は、時代の先を行っていると感じます」
ここまでの話を踏まえて、かぁなっきさんは「8番出口」の映画版にこう期待を寄せる。
「ゲーム版の魅力をそのまま映像化するのは、映画というメディアが物語を必要としがちな性質上難しいかもしれません。
ですが、恐怖の気配を楽しむ傾向が強くなってきた今の日本であれば、ゲーム版とは異なるアプローチであっても、リミナルスペースの魅力を十分に活かした作品に仕上げてくれるはずです」
取材・文/むくろ幽介