令和のホラーマニアを刺激するホラー概念“リミナルスペース”

“リミナルスペース”という概念についてもう少し深く解説していただこう。

「リミナルスペースは、2019年ごろに海外掲示板で“不気味な雰囲気を醸し出している空間”を指す言葉として語られるようになりました。

本来は“空間同士をつなぐ、人が常駐しない人工的通路や待機場所などを指す建築用語”なのですが、今ホラー好きたちの間では前述の意味でよく使われています。

今のところホラー文脈で定義付けはされていないのですが、夢で見たような空間であることは特徴として挙がりますね」

リミナルスペースのイメージ画像(写真/Shutterstock)
リミナルスペースのイメージ画像(写真/Shutterstock)

8番出口の舞台は駅の地下通路だが、これは本来の意味でもホラー文脈の意味でもまさにリミナルスペースそのものだったわけだ。かぁなっきさんはリミナルスペースを構成する要素はまだまだあると指摘する。

「場所と場所をつなぐ空間というのは“スイッチする空間”とも言い換え可能です。

例えば、駅の地下通路やホームは電車に乗っていない状態から乗るという状態にスイッチする境目の場所ですよね。こうした空間で人は異界を想像してしまうのかもしれません。

2000年に2ちゃんねるの“洒落怖”スレに投稿された人気怪談『猿夢』は、スレ主が夢を見ると無人駅のホームに奇妙な電車がやってきて、それに乗ると乗客の殺され方を語る奇妙なアナウンスが聞こえてくる……という内容なのですが、この話における駅のホームは異界との境目という意味でとてもリミナルスペース的です」

©2023 KOTAKE CREATE
©2023 KOTAKE CREATE

リミナルスペースには“懐かしさ”も大きな要素だそう。

「リミナルスペースの閉塞感って90年代ごろのビデオゲームによくあった、何もない空間をさまよっているときに感じる居心地の悪さと似ています。

この“リアルだけどリアルじゃない感覚”は、例えば人体模型が動くといった“生きていないのに動いている”というホラーの定番表現にも通じるものです。

リミナルスペースの流行を思うと、現代ではその感覚が生物から“空間”に拡大されたのかもしれません」