「愚鈍な警察諸君 ボクを止めてみたまえ」
1997 年2月10日、小学生の女児2人が、何者かにハンマーで殴られ重傷を負うという事件が神戸市須磨区で発生しました。1カ月後の3月16日、またもや小学生の女児が何者かにハンマーで殴られ、一週間後に死亡。さらに同じ日に別の小学生女児がナイフで腹部を刺され重傷を負うという事件が連続して起こりました。
当時、事件が起こった地域はもちろん、マスコミも含め言いようのない緊張感に包まれていました。そして事件はさらに恐ろしい展開を見せたのです。
5月24日、小学6年生の男児が行方不明になりました。3日後の5月27日、須磨区の中学校の正門に行方不明だった男児の首だけが置かれているのが発見され、その口には「さあゲームの始まりです」から始まるメモが入っていたのです。
「さあゲームの始まりです 愚鈍な警察諸君 ボクを止めてみたまえ ボクは殺しが愉快でたまらない 人の死が見たくて見たくてしょうがない 汚い野菜共には死の制裁を 積年の大怨に流血の裁きを SHOOLL KILL(原文ママ)」
そしてメモには「酒鬼薔薇聖斗」という名前らしきものも書かれていました。ここにきて、事件は一気に猟奇殺人の様相を呈していきます。
私はこの事件の一報を、放送局に出勤したときに慌ただしく動き回る報道記者からの説明で知ったように記憶しています。驚きを通り越し、恐怖を感じました。
近隣住民らの目撃証言では「犯人は30~40代の男性」「黒の車に乗っていた」「いや、スクーターに乗っていた」などさまざまな犯人像が取りざたされました。私自身も映像編集をしていて、画面の端に映った人物を見て、「この人物が犯人かもしれない」という妄想まで出てくるような状態でした。
事件現場から離れた放送局の編集室で画像を見ているだけの私ですらこう思うのですから、地元住民の疑心暗鬼や恐怖は想像できないほど大きなものだったと思います。
その後も地元の神戸新聞社に犯人と自称する人物から手紙が届きます。文中では自分のことを「透明なボク」と表し、報道が酒鬼薔薇(さかきばら)を「おにばら」と読んだことに憤っていました。
子供の首を切り落とし、「人の死が見たくてしょうがない」と声明文に書くような殺人鬼が今も付近をうろうろしているという恐怖感で重い空気に包まれた日々が続きます。
そして6月28日、ついに犯人が逮捕されます。驚くことにその犯人は、児童の首が置かれていた中学校に通う14歳の少年だったのです。事件の残忍さと14歳という年齢のあまりのギャップに私たちも戸惑いました。
最初の事件から4カ月以上、今まで経験したことのない展開を見せたこの事件は、衝撃の結末を迎えたのでした。