「AIが作る音楽でヒット連発」が難しいわけ 

――あの大ヒットの裏にそんなストーリーがあったとは思いもしませんでした。

ディテールに神は宿るじゃないですけど、何かを生み出そうと思ったら、その真ん中にある「思い」の部分を大切にしなければなりません。

さきほど「ヒットに法則はない」と申しましたが、ヒットしているものの背景には必ずこうした人の思いや、ストーリーがあります。なぜならファンは、アーティストの「思い」や「生き様」に共鳴するからです。

たとえば「売れそうだからカバーをやりましょう」とか「YouTubeの再生数が多いのでやってみましょう」という、小手先のテクニックや熱量では、なかなか人は共鳴してくれません。同じ理由で、AIが作る音楽も1回は売れるかもしれないですが、ヒットを連発するのはやはり難しいと思います。

「ディティールに神は宿る」と語る藤倉社長
「ディティールに神は宿る」と語る藤倉社長

――そこに音楽会社の役割があるということですね。

社員には常々、我々CDだけ売ってるんじゃない、ストリーミングだけ売ってるんじゃないと言っているんです。アーティストのメッセージを忠実にキャッチし、それをファンに届ける。そして、ファンの声をキャッチし、アーティストと形にしていく。この根幹は、今後も変わらないと思います。

――音楽やアーティストに対する愛をひしひしと感じますが、そもそも藤倉さんが音楽を愛したきっかけを教えてください。

最初の記憶でいうと、小学生の頃はアニメ『ルパン三世』の曲などが好きでしたが、音楽を“愛した”というワードで思い出すのは、中学生のとき、初恋の女性がオフコースが大好きだったんです。それで彼女と会話を合わせたいがために、オフコースのLPレコードを買いました。「好きな人と近くなりたい」が入口だったというと、小田和正さんに怒られてしまいそうですが(笑)。

5時に起床、7時までの2時間が大切な時間 

ユニバーサル藤倉社長が明かす「ヒットの法則はない」といわれる音楽業界で「ヒット作の背景に必ずあるもの」 _4

――ご多忙な中、プライベートで何か習慣化されていることはありますか?

社長になったときから「勘違いしてはいけない」と自分を戒める意味も込めて、新しいこと、やったことないことを意識的にやるようにしています。

料理や中国語の勉強をしたり、46歳でサーフィンも始めました。本社のあるサンタモニカで宿泊していたホテルの目の前がビーチで、他国のリーダーたちが朝から気持ちよさそうに波に乗っているのを見て、自分もやってみたいと思うようになったんです。

やはりルーティーンの中で、同じ人と会い、同じ場所にいて、同じことをやっていては、なかなか新しいものは生まれにくい。新しいことに取り組めば上手くいかないことも多いですが、だからこそそうした経験をすることは大事だと思ってます。

今年は何に挑戦しようか…カラダ系(運動)か、アタマ系(語学など)か、どちらにしようかと考え中です。

――1日の中で大切にしている時間帯はありますか?

朝5時に起床してから、7時までの2時間をとても大切にしています。本を読んだり、自分の中のまとまっていないことなど“思考の整理”をする時間です。

やることリストのメモを確認し「今日はこれを落とさないように」とマークをつけ、スタンバイします。1日が始まると、会議だ、次の予定だ、と流され「もう夕方!?」となりかねないため、1日の流れを朝の2時間の段階である程度、頭に入れておきます。

そもそも早起きになったのは、時差のある海外との仕事に備えるためでした。本社のLAとのミーティングは8時〜10時、1番多いのが8時です。LAの15時ですね。でも、朝起きることは苦じゃないです。

――心身の健康維持のために取り入れていることは。

仕事の準備を終え7時頃に朝食をとるんですが、日中は外食で、お肉や好きなものばかりに手が伸びてしまうので、青汁を混ぜたヨーグルトを必ず食べています。おかげで体調もよりよくなりました。

以前は海外出張が多かったこともあり、遅くまで飲んで夕飯を2回食べて、という生活をしていました。すると、お腹が出て、顔もむくみ「コンディション大丈夫ですか?」と言われてしまうこともあって、これはまずいなと。

社員に対して「一期一会を大切に」とか言っておきながら、自分が一度しか会わないかもしれない人に「藤倉さんって、体調悪そうな人ですね」と思われるのは嫌ですから。

我が社の信念である「人を愛し、音楽を愛し、感動を届け」続けるためにも、自分の心身の健康を侮らずに今後も邁進していきたいです。

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取材・文/山田千穂 撮影/村上庄吾