各作家について(作家名五十音順)

田亀源五郎(たがめ・げんごろう)
著名なマンガ家であるとともに、ゲイ・エロティックアートの分野で卓越した存在。彼のマンガは男性同士の愛を中心に、アイデンティティ、偏見、カミングアウトへの葛藤を描写している。国際的な賞を受賞した、『弟の夫』は、実写ドラマ化もされ、日本人の心、思考や態度に変化をもたらした。日本郊外の地域社会を舞台に、家族、偏見、受容等のゲイにまつわる問題を描いている。『僕らの色彩』はカミングアウトに伴うさまざまな葛藤や課題を浮き彫りにし、『魚と水』では、料理や食事を通して関係を深めていく、タイプの異なるふたりの男性の恋愛関係を描いている。

展示では、社会運動のひとつの形態として、また個人のアイデンティティや指向を称える手段として、田亀がどのようにマンガを用いているのかを紹介する。作品はデジタルで制作されている。

展示予定作品:『弟の夫』『僕らの色彩』『魚と水』(双葉社)、オリジナルイラスト

田亀源五郎『僕らの色彩』©Gengoroh Tagame/ Futabasha Publishers
田亀源五郎『僕らの色彩』©Gengoroh Tagame/ Futabasha Publishers

田名網敬一(たなあみ・けいいち)
グラフィックデザイン、ファインアート、アニメーションなどを横断して創作を続けたアーティスト。

第二次世界大戦中の自身の体験をアメリカのポップカルチャーと融合させ、戦後のアンダーグラウンドなアートシーンを牽引。その作品は、消費主義、エロティシズム、トラウマなどを反映し、日本の伝統的モチーフと現代の視覚文化の橋渡しともなっている。

2021年末、かつて日本の出版印刷において隆盛を誇ったグラビア印刷の稼働停止を機に、「集英社マンガアートヘリテージ」が、グラビアプリントによるアートシリーズ制作を依頼。赤塚不二夫作品のアイコニックなキャラクターやユニークな描き文字を引用し、赤塚への敬意に満ちた作品を86歳で発表した。その創作活動はプリント作品にとどまらず、茶室のインスタレーションや着物制作にまで及び、2024年に88歳で逝去するまで創作を続けた。

「集英社マンガアートヘリテージ」セクションでの展示予定作品:『TANAAMI!! AKATSUKA!!』シリーズ

田名網敬一+赤塚不二夫『TANAAMI!! AKATSUKA!! / Revolver 2「鏡を見ている」』(集英社マンガアートヘリテージ) ©Keiichi Tanaami Courtesy of NANZUKA ©Fujio Productions Ltd./ Shueisha Inc.
田名網敬一+赤塚不二夫『TANAAMI!! AKATSUKA!! / Revolver 2「鏡を見ている」』(集英社マンガアートヘリテージ) ©Keiichi Tanaami Courtesy of NANZUKA ©Fujio Productions Ltd./ Shueisha Inc.

谷口ジロー(たにぐち・じろー)
谷口ジローは、人間の感情と自然界の交差点を深く探る作品を生み出したマンガ家だ。鳥取県鳥取市で育ち、早くからヨーロッパと日本双方の芸術的伝統に惹かれていた。彼の独特なスタイルは繊細な描線と映画的な物語表現を組み合わせたもので、作品は思い出、ノスタルジア、人間と環境の関係性といったテーマに深く踏み込んでいる。谷口の代表作であり批評家から高い評価を得た『遥かな町へ』にその一端がみられる。

谷口はまた、まるで異なる世界観で『地球氷解事紀』のようなSF作品も手がけた。この作品は、破壊された地球が再生し、自ら新たな生命を宿し始める未来へと読者を誘う。展示原画はすべて谷口と彼のアシスタントによって、手描きで描かれ彩色された。

展示予定作品:『孤独のグルメ』(原作:久住昌之/扶桑社)、『ふらり。』『地球氷解事紀』(講談社)、『遥かな町へ』(小学館)、『ヴェネツィア』

原作:久住昌之 作画:谷口ジロー『孤独のグルメ』©PAPIER/ Jiro Taniguchi/ Masayuki Qusumi, FUSOSHA
原作:久住昌之 作画:谷口ジロー『孤独のグルメ』©PAPIER/ Jiro Taniguchi/ Masayuki Qusumi, FUSOSHA

ちばてつや
ストーリーマンガの第一人者。スポーツ好きで、ゴルフマンガ『あした天気になあれ』をはじめ幅広くスポーツを描いて、この分野の発展にも寄与。マンガ作品にその情熱が反映されている。初期には少女マンガなど他ジャンルも手掛けていた。

天涯孤独の少年が、刑務所での生活を経たのち、ボクシングを通して生きる意味を見出していくという物語の『あしたのジョー』は、原作を高森朝雄、漫画をちばが担当した共同作品であり、戦後初期の日本の労働者階級の夢や苦闘を見事に描き出した。

86歳の現在もなお、後進の指導を続け、定期的に作品を描いている。連載中の『ひねもすのたり日記』は、自身のマンガとの人生を綴った自叙伝的作品である。2024年にマンガ家として初となる文化勲章を受章した。

導入コーナーでの展示予定作品:『あしたのジョー』(原作:高森朝雄)『あした天気になあれ』(講談社)、『ひねもすのたり日記』(小学館)

原作:高森朝雄 漫画:ちばてつや『あしたのジョー』©AsaoTakamori, Tetsuya Chiba/ Kodansha Ltd.
原作:高森朝雄 漫画:ちばてつや『あしたのジョー』©AsaoTakamori, Tetsuya Chiba/ Kodansha Ltd.