編集者は「敵」じゃない

露伴にとって京香は「悪役」と書きましたが、基本、編集者は漫画家の「敵」ではありません。

もしかしたら、新人の漫画家の中には、「ここができていない」「これはダメだ」と編集者から厳しいことを言われて、「この人は敵だ!」となってしまう人がいるかもしれません。でも、編集者はあくまでプロとして、その原稿をよくするための指摘をしているのであって、別に漫画家本人を否定しているわけではないのです。

漫画家・岸辺露伴と担当編集者・泉京香 
©荒木飛呂彦&LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社
漫画家・岸辺露伴と担当編集者・泉京香 
©荒木飛呂彦&LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社
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一生懸命描いた作品を批判されれば誰でも傷つきますが、そこは誤解しない方がいいと思いますし、編集者は漫画家と切磋琢磨しながら一緒に上がっていく仲間、バディだということを忘れないでほしいと思います。僕の歴代の担当編集者もよき相棒として、読者との距離感をどこかつかみきれない僕をそれとなく導いてくれています。

僕も新人時代、編集者から厳しいダメ出しを山のように受けました。『漫画術』でも、原稿を袋からちょっと出しただけで、「こんなの見たくない」「なんかもっと読みたくなるようなの描いてきてよ」と突き返す編集者のエピソードを書きましたが、当時、漫画を持ち込んでくる新人に対する気遣いなどは一切なかったですし、僕も面と向かってずいぶんキツいことを言われました。

1時間くらいずっと編集者に怒られたときは、漫画を描いた後で疲れていたので、途中で寝てしまったこともあります(笑)。僕が新人のときに出会った編集者たちのキャラクターを京香に取り入れてみたら、さらにパワーアップするかもしれません。

自分のメンタルを守ることは最優先だということを前提としつつ、僕の場合はそういう厳しい編集者たちがいたからこそ、「ただ好きで漫画を描いているだけではプロにはなれないんだな」と気づくことができました。

特に初代担当編集者からは「好きなことはやろう。だけど、読者が楽しめないような独りよがりの漫画はいけないよ」ということを徹底的に叩き込まれました。

漫画家にとって最初の読者は編集者です。彼らが袋から原稿を出したとき、「お、これは読んでみたいぞ」と思わせるにはどうすればいいか、絵やタイトル、セリフの入れ方に至るまで考え抜いたことで、プロとしてやっていく一歩を踏み出せたのだと思います。

『漫画術』には、編集者に最初の1ページをめくらせるにはどうすればいいか具体的に解説してありますので、漫画家志望者は活用してみてください。