絵を描く喜び

『ジョジョ』第9部「The JOJO Lands」の連載を始める前、舞台となるハワイに取材に行き、何万枚も写真を撮ってきました。その写真をスキャンしてデータ化し、それを見ながらあえて手で描いています。

現在連載中の『ジョジョの奇妙な冒険』第9部 ザ・ジョジョランズ ©荒木飛呂彦&LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社
現在連載中の『ジョジョの奇妙な冒険』第9部 ザ・ジョジョランズ ©荒木飛呂彦&LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社
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手間はかかりますが、データを加工した絵では自分の世界観を出せないと思うからです。特に植物や動物のような生命体、岩や雲といった自然物は、やはり自分で描かないとキャラが出てこない感覚がありますし、世界観を出すためにもアシスタント任せにせず自分で描きたい部分と言えます。

とはいえ、僕もデジタルをまったく取り入れていないわけではありません。デジタルツールは漫画を描くための道具のひとつですから、たとえばアシスタントが背景などを描くとき、僕が撮影した写真をソフトに取り込んで加工したデータを使っています。

ただそのままだと、そこだけなんだか無機質になって、立体感も出ないので、仕上げには必ず人間の手を入れます。しかし今後、AIがさらに進化していけば、そうした欠点も解消され、人間が手を加える余地はどんどん少なくなっていくでしょう。

道具という意味では、デジタル技術はもっともっと発展していってほしいですし、いずれ頂点を極める日も来るのだと思います。

そうなったら、人間は絵を描けなくていいのかと言えば、そんなことはないと僕は思います。デジタルは便利かもしれませんが、しょせんは道具なので、それを使いこなせるだけの技術を身につけておくにこしたことはありません。

ソフトでそれなりに描けてしまうように思えても、「こいつ、絵が下手だな」というのは見ているとすぐわかります。打ち込みが多用される音楽の世界でも、実際に楽器を弾ける人とそうでない人とで曲のクオリティは全然違うと聞いたことがありますが、それと同じだと思います。

また、デジタルには詐欺師が容易に入り込んできますから、それを見抜くためにも、アナログで描けるというのはやはり大事です。