岸辺露伴の担当編集者・泉京香の作り方

岸辺露伴の担当編集者、泉京香は実は悪役、しかもかなり手強い敵です。そう書くと、「え!?京香が悪役ってどういうこと!?」と驚く人もいるかもしれません。

漫画家からすれば、原稿にスパゲティソースを飛ばしたり、カフェオレをこぼそうとするギャグをかましたりする時点で、もう立派な悪役と言えます(笑)。原稿の上に平気でコーヒーを持ってくる編集者なんて、僕は見たことがありません。

岸辺露伴と泉京香 ©荒木飛呂彦&LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社
岸辺露伴と泉京香 ©荒木飛呂彦&LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社
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それはさておき、前にも述べたように、悪役にはいろいろなタイプがあります。

暴力的な悪役、政治的な思想の悪、恋敵……中でも世の中で一番厄介な敵となるのが仲間や家族、恋人などで、信頼していた身近な人から裏切られると、非常に大きなダメージを受けることになります。

もっと困るのが、明らかな悪意があるというわけではないけれども、その人が無意識のうちにとる行動が主人公を困難に陥れていくケースです。

アドバイスに従ったらひどい目に遭ったとか、その人のせいで財産を失っていくとか、ささやかなところでは「あいつが来ると、必ず雨が降るんだよな」みたいな、本人にはそのつもりがないのに一緒にいる人が災難に遭ってしまう、疫病神のような存在……きっと現実の生活にもこういう人たちがいるのではないかと思います。

こういうタイプはぱっと見、わかりにくい敵なので、周囲からは「あの人はヤバい」ということが見えているのに、害を与えている本人は全然気づいていなかったりするのです。

少年漫画でも、主人公が敵と戦っているとき、味方のはずなのに、実はそいつがいることでどんどん窮地に陥っていくという場面が出てきます。

『ジョジョ』では第四部の「透明の赤ちゃん」が登場するエピソードで、周囲を透明にしてしまう赤ちゃんのスタンドが暴走する中、なんとか状況を好転させようとする仗助の足を引っ張る、耄碌したジョセフがその役回りでした。

京香は、編集者という漫画家の最も身近なサポート役でありながら、自分では意図せずに露伴をトラブルに巻き込んでいく、まさにこの厄介な悪役そのものなのです。