安らぎを求めた末に見つけたアート
2007年には映画『0からの風』が製作され、田中好子さんや杉浦太陽さんなど有名俳優が起用された。言うまでもなく、タイトルの「0」(ゼロ)は亡き零さんを表している。
「映画という訴求力のある媒体によって、より多くの人たちが真剣に考えるきっかけになってほしいと考えました。また、映画のなかで零を蘇らせるという私自身の慰めにも繋がっています」
この映画製作によって、またひとつ具現化された鈴木さんの思いがある。
「東京都日野市にある廃校となった学校を利用して、常設展である“いのちのミュージアム”を立ち上げました。そこでさまざまなアート展を行い、主に地域の子どもたちに見てもらうことによって、生命の大切さについて考えてほしいという意図があります。
ひとりひとりが思いやりを育み、生きることに誠実であり続ければ、誰も犯罪に手を染めない社会に近づけるのではないかと思っています」
鈴木さんの穏やかで力強いアートへの情熱は、世間が抱いている慟哭する犯罪被害者像と異なるかもしれない。
「事件を赦すことはないし、それは変わりません。私も加害者に怒り、法制度に怒り、社会に怒って生きてきました。怒りが私を支えた部分が確かにあります。
しかし一方で、怒り続けることは非常に苦しくもあります。私はどこかに安らぎを求めてもいました。そこで生まれたのが、アートという発想だったのかもしれません。犠牲者を『メッセンジャー』と呼び、新たな生命を吹き込むことで、その人たちは役目をもって生きることができます。絶対にどんな生命を無駄にしないという決意でもあります。
生きたくても生きることのできなかったメッセンジャーたちの存在を通して、生きている奇跡、生命の輝きを感じ取ってもらえたら、と思っています」
不条理な死を前に、どう行動するかは人によって異なる。闘って傷つき、追い詰められた精神状態のなか、鈴木氏はアートに託した。言葉にできないあらゆる感情を芸術が届け、次の世代の規範意識に繋がる未来を信じて。
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取材・文/黒島暁生 写真/鈴木共子氏提供