フェンタニルをめぐる米中戦争

丸山 フェンタニルという薬物が北米で社会問題になっているというのはご存知ですか?

ナオキマン 確か元々は鎮痛剤ですよね。アメリカでその乱用が問題になっているというのは聞いたことがあります。

丸山 ヘロインと同じオピオイド系の薬剤なんですが、その過剰摂取で2021年にはアメリカで7万人が亡くなったと言われています。

僕もその現状を取材したくてカナダに行ったんですが、そこで出会ったフェンタニルの常習者は、お医者さんでした。末期がんの患者だったんですが、家族に苦しむ姿を見せたくないから鎮痛剤としてフェンタニルを服用していた。

もちろん医者だからそれが麻薬だとはわかっているんだけど、のたうち回る姿を家族に見せるよりはこのままやすらかに死ぬほうがいいと。
 

ナオキマン つらいですね。でも、みんながみんな、医療きっかけではないですよね。乱用者が増えたのはなぜなのでしょう?

丸山 一つには、安くて手に入りやすいからでしょう。快楽目的の若者が出会い系アプリなんかを通して集まって使い、広まっていっている、と言われています。そういう連中はフェンタニル単体ではなく、動物用鎮静剤のキシラジンと混ぜて使ったりもします。

フェンタニルを摂取する女性 撮影/丸山ゴンザレス
フェンタニルを摂取する女性 撮影/丸山ゴンザレス
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ナオキマン キシラジン入りのドラッグは、ゾンビドラッグとも呼ばれていますね。ゾンビのように体に穴が開き、ボロボロになっていくという。

丸山 そうです。キシラジンはヘロインやコカインと併用されることもあるようですが、多いのはフェンタニルのようです。有効な治療薬がないから、アメリカ政府も警戒しています。

ナオキマン フェンタニルが流行っている背景にはどんな事情があるんですか? ニャオペの常用者のような、つらい事情を抱えた人ばかり、ってわけではないですよね。

丸山 実は中国が国策として、アメリカを弱体化させるために送り込んでいるという話があるんです。
 

ナオキマン え! コロナの話にもつながりそうな内容ですね。

丸山 そうなんです。フェンタニルを生産しているのはメキシコのマフィアなのですが、その原料は中国産です。アメリカやメキシコでそのドラッグはどこ原産か?って聞くとかなりの割合で中国産なんですよ。

アメリカは規制を強化したいけど、米中が政治的に対立する時期には、うまくいかないこともある。対立が表面化している近年は、うまくいっていない時期ですね。

アメリカの司法省は中国企業8社と中国人12人を、フェンタニルの密造に関わったとして、訴追しています。2023年10月のニュースなので、まだこれからどうなるかはわかりませんが、今の中国とアメリカは麻薬戦争と言ってもいいくらいバチバチの関係です。

カギを握るのは習近平国家主席か 写真/Shutterstock.
カギを握るのは習近平国家主席か 写真/Shutterstock.