「芸術か商業かの選択は漫画家の生き方が問われるところ」という荒木飛呂彦が警鐘を鳴らす、漫画家をダメにするトラップとは
人気漫画『ジョジョの奇妙な冒険』の作者・荒木飛呂彦氏。今や大ヒット作を掲げる彼も、新人時代には編集者に厳しく指摘を受けていたことがあり、さらには今でもなお、編集者のコメントには耳を傾けるという。漫画家と編集者の理想的な関係とは? また、あらゆるクリエイターにとって命題となる「芸術か、商業か」の選択についても荒木飛呂彦はどう考えているのか。
彼ならではのアドバイスを、書籍『荒木飛呂彦の新・漫画術 悪役の作り方』より一部を抜粋・再構成しお届けする。
荒木飛呂彦の新・漫画術 悪役の作り方 #3
読者アンケートや部数というデータ
確かに、「こうすればウケる」という誘惑は強力で、編集者から「あの漫画はこれでヒットしているから、そういうのを描いてみたら」と言われたときどうするかは、なかなか難しいところです。
特に、『少年ジャンプ』は人気がある名作だらけですし、読者アンケートや部数というデータを突きつけられると、なかなか抵抗しにくいと言えます。僕も自分の漫画がそんなにウケていないときは、「ちょっと取り入れないといけないのかな」と、ぐらつきかけたことがありました。
たとえば、『ジョジョ』の読者アンケートがあまりよくなかったころ、編集者から「他の漫画で、キャラクターが生き返ったときのあの回の人気がすごかったから、『ジョジョ』でもやろう」と提案されたことがありました。
人気があるキャラクターが生き返ると、読者は「あいつが帰ってきた!」と嬉しいもので、その気持ちはよくわかります。一瞬、「やりたいな」と思いましたが、先祖からのつながりを描いている『ジョジョ』でそれをやったら、話がむちゃくちゃになってしまうでしょう。
また、僕の好きなゾンビ映画では、生き返ると価値観や哲学が逆転して、自分の愛するものを殺さなければいけなくなってしまうので、「やっぱり一度死んだ人間が生き返るのはよくないよな」と考え直しました。
生き返らせることはしないけれど、その分、人間が生きるとは、死ぬとはどういうことかを『ジョジョ』という漫画でちゃんと描こうと、改めて心に決めたのです。
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それで人気が出ずに連載が終わる可能性もありましたが、ブレなかったことは結果的に正解だったと思います。
「最近ウケてないから、テコ入れで世間でヒットしている○○みたいなキャラクターを入れなきゃ」と気持ちが揺れたり、編集者から「もっと売れ線を狙え」と言われたりしたら、「それは今描こうとしている漫画にハマるのかな」と検討してみることをお薦めします。
だいたいの場合、「ハマらない」ことの方が多いんじゃないかと思いますが、そういうときは、自信を持って自分が描こうとしている漫画をきちんと描ききるべきなのです。
ウケないのはむしろ描きたいことを深く描いていないからであって、ブレずにどんどん突き詰めていく方がよい、というのが僕の考えです。
プロとして「売れないといけない」というプレッシャーはありますが、「こんな地味で不細工なキャラクターが世の中に受け入れられるんだろうか?」と不安に思っても、その漫画の「基本四大構造」がちゃんと融合していれば、意外と大丈夫なものです。
でも、ヒットするかしないかなんて、売れている漫画家が本当にわかって描いているかと言えば、そんなことないんじゃないかな……と、僕は思っています。
漫画・イラスト/書籍『荒木飛呂彦の新・漫画術 悪役の作り方』より
写真/shutterstock
2024年11月15日発売
1,034円(税込)
新書判/224ページ
ISBN: 978-4-08-721338-6
◆内容紹介◆
世界の16の国と地域で翻訳刊行されるなど、いまや古典となった『荒木飛呂彦の漫画術』(集英社新書)から10年。
だが、ある時、『漫画術』を読んで漫画家になった人もいるとしたら、「もうちょっと深い話も伝えておかなければならないのではないか」と、荒木は考えた。
『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズをはじめとした荒木作品に登場する名悪役たちの魅力とリアリティはどのように生まれるのか?
漫画の王道を歩み続けるために必要なことは?
いまだ語られなかった、漫画家・荒木飛呂彦の「企業秘密」を掘り下げた、新・漫画術。
◆目次◆
第1章 漫画の「基本四大構造」を復習&さらに深掘りする
第2章 超重要! 悪役の作り方の基本
コラム 『ジョジョ』歴代敵キャラについて
「悪役の作り方」実践編 その1 岸辺露伴の担当編集者・泉京香の作り方
「悪役の作り方」実践編 その2 一から悪役を作ってみる
第3章 漫画の王道を歩み続けるために
番外編 『The JOJOLands』第1話とコマ割りについて
ほか、ディオ、吉良吉影、ヴァレンタイン大統領の身上調査書も公開!
2024年12月18日発売
572円(税込)
新書判/184ページ
ISBN: 978-4-08-884298-1
ルルちゃんの「バグス・グルーヴ」により負傷したウサギを治療するため病院を訪れたジョディオ達は、HOWLER社が差し向けたもう一人の追っ手、ボビー・ジーン捜査官に遭遇する。スタンド2体による同時攻撃に防戦を強いられるジョディオは…!?
JOJO magazine 2024 WINTER
荒木飛呂彦
2024年12月18日発売
1,980円(税込)
B5判/304ページ
ISBN: 978-4-08-102425-4
“JOJO”を愛する全ての人に贈る…1冊全部JOJOの本第4弾!!
描き下ろし
★荒木飛呂彦[カバーイラスト]
巻頭企画
★荒木飛呂彦×ステンドグラス
★『続・荒木飛呂彦の漫画術 EXTRA TALK』
特集
★JOJOで描かれる女性たち
★暗殺チームのすべて
スピンオフ漫画
★うすた京介[間田敏和の微妙な冒険]
★西尾維新×出水ぽすか[魔好青年ビーティー]
スピンオフ小説
★尾北圭人[オレ自慢の針と糸]
付録★JOJO magazineスペシャルステッカー2枚組
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