認知症の人からの「SOS」は意外なところにある
訪問診療先では、ご家族や施設スタッフから「認知症の人が興奮して、介護ができないときがある」という相談を受けることがあり、それは被害妄想や暴言、暴力、徘徊などの「行動・心理症状(以下、BPSD)」だと解釈されていることが往々にしてあります。
しかしそのような場合、私がまず検討するのは、せん妄です。症状が急に変化したわけですから、興奮の症状が出たときの状況を詳しく聞きます。そして夕方から夜間に悪くなっているなどと聞けば、せん妄の可能性があると考え、誘因は何か、やめられる薬はないかなど、対応を考えるのです。
せん妄の可能性はないと考えられた場合には、高齢てんかんや、うつ病など、ほかの精神症状の可能性を考えます。
それらが除外されたとき、BPSDの可能性を考えます。ただし、BPSDを「家族や支援者を困らせる症状」と見るのではなく、認知症の人が何かを伝えようと試みている、「チャレンジング行動」として検討します。
チャレンジング行動とは、知的障害や発達障害の人を支援する現場から生まれた考え方で、知的障害や発達障害の人たちに精神症状や行動障害が生じたとき、環境に適応できず、困っていることの表現。正しい対応を求めて訴えている行動ととらえるというものです。