「家族を困らせる行動」は「本人が困っていると知らせる行動」
精神障害や発達障害のある人も、健康な人と同じく、周囲の環境に適応しようと懸命に生きています。しかし、それがうまくいかないとき、障害があるために、問題を周囲にわかりやすく伝えることができない。周囲からは、言わば〝とんちんかんな反応〟が返ってくる。それで、正しい対応を要求する行動が生じる。
知的障害や発達障害の人を支援する現場では、チャレンジされているのは環境であり、支援者だと見直して、真に求められている対応を考え直したわけです。
これは認知症の人のケアにも当てはまって、チャレンジング行動と考え直してみると、実際に合点がいくことはよくあります。
たとえば、虫歯や便秘。健康な人は、歯が痛ければ、虫歯かもしれないと考え、歯医者さんへ行きます。
便秘が数日続けば、お腹をマッサージしたり、食物繊維が豊富なサラダを食べたり、何かしら対処するでしょう。
つまり苦痛を自覚して、適応する行動をとることができるのです。
しかし、認知症の人は、何らかの苦痛となることが生じても、対処するのが難しくなることが増えます。
周囲に対して、事実や思いを適切に伝えられないでいることが、最近、怒りっぽく、興奮しているなどと見られてしまう。
便秘が6日以上続けば、イライラして、怒りっぽくなってしまう人が多いと思いますが、認知症の人はそれをBPSDだと早合点されてしまうのです。
認知症の人が歯の痛みやお腹の膨満感が苦しくて、混乱しているとき、チャレンジング行動と見て、SOSが発信されている! 苦痛の原因は何か? と考え、適切な対処をすると、当然ながら平穏を取り戻す、ということが実際によくあるのです。
つまりBPSDは「家族や支援者を困らせる症状」ではなく、「本人が困っていると表現している症状」なのです。