学校が定める規格
「とある小学校」とは、2016年の8月まで私が住んでいたニューヨーク市のハーレムにあるKnowledge Is Power Program(通称KIPP)という大手の公設民営学校(チャータースクール)の一つだ。
市場化されたアメリカの公教育では近年、ファーストフード店のように次々と学校を開く「マックチャーター」と呼ばれる公設民営学校チェーンが、「学力困難校」に認定された従来の公立学校に置き換わる形で数を増やしてきた*3。
中でも、KIPPやAchievement First、Success Academy、Uncommon Schoolsなどのチェーンは、市場化する公教育で勝ち抜くために効率化の徹底を図り進化してきた学校だ。
生徒の大半はアフリカ系かラテン系アメリカ人で、テスト至上主義、効率化の徹底追求、学習スタンダード、ゼロトレランスを組み合わせたスパルタ教育で、教育熱心な貧困層の親の間で人気を博してきた。
公教育の市場化がアメリカほど成熟していない日本においては、学習スタンダードとゼロトレランスの関係性は見えにくい。しかし、このようなアメリカの公設民営学校などの日常風景を見れば、学習スタンダードやゼロトレランスと公教育の市場化の関係性がよくわかる。
学力標準テストが教育を支配する文化は、子どもたちさえをも標準化しようとする。各学校が少しでも安く、より高い「学習効果」を目指して競争する中、排除されるのは問題行動を起こす子どもだけではない。
点数の稼げない子、障がいを抱える子どもたちさえも、学校が定める規格に合わなければ、まるで工場における「品質管理」のように容赦なく排除されていくのだ。
写真/shutterstock
註
*1 Foucault, M.(2008)The Birth of Biopolitics: Lectures at the Collège de France,1978-1979.New York: Palgrave Macmillan.
*2 鈴木大裕「市場化する教育のゆくえ」『教育』2017年8月号。
*3 詳しくは、鈴木大裕『崩壊するアメリカの公教育―日本への警告』(岩波書店、2016年)第6章「アメリカのゼロ・トレランスと教育の特権化」。