アメリカ市場でEVの覇者になるのは?
日産はアメリカでEVセダンの開発を進めており、2025年からの生産を計画していた。
ミシシッピ州のキャントン工場に5億ドルを投資し、日産とインフィニティブランドの新型EVを生産するというものだ。
日産はアメリカにおける販売数の4割をEVにするという計画を立てていた。
足元の販売台数に弾みをつけてシェアを高め、EVへの移行をスムーズに進めようとしたのだろう。
「The Arc」には「地域ごとに最適化した戦略により、販売台数増とEV移行の準備を推進」とある。
アメリカでの日産ブランドの浸透を図り、次なるEV需要を獲得しようと青写真を描いていた様子が浮かび上がる。
急伸するBYDはアメリカへの進出に苦心しており、日産がEVシェア拡大に布石を打とうとしたとも言えるだろう。
しかし、アメリカでのEV販売の伸びが鈍化したことを受け、EVセダン2車種の開発は延期が決定している。
日産はアメリカ法人の従業員を対象に希望退職者を募集し、6%程度が応募したことが明らかになっている。
トロイカ体制は早くも崩壊
経営判断を下すにあたって、経営トップに権力が集中したこともよく似ている。
ゴーン氏の右腕と称された元COOの志賀俊之氏は2015年に代表権を外れた。官民ファンドの産業革新機構のトップに就任することが決定し、利益相反を懸念して距離をとったのだ。
副社長としてゴーン氏を長らく支えたパトリック・ペラタ氏も2012年9月にセールスフォースに転身している。
内田氏がCEOに就任し、経営を支えていたのはアシュワニ・グプタCOO、関潤副COOの2名だった。
これは日産トロイカ体制と呼ばれ、経営再建に期待されていた。新体制になった内田氏は、社員と経営層が一丸となってワンチームとして進めたいと語っていた。
しかし、関氏は2019年12月に日本電産からのラブコールで退任すると発表。アシュワニ・グプタ氏は2023年6月に任期満了で退任した。
これ以降、ナンバー2のCOOは不在となり、内田氏に権限を集中させたのである。
内田氏が経営トップに就任して5年。一般的な任期を考えれば、交代してもおかしくはないタイミングだ。
しかも、日産は東芝を非上場化に追い込んだアクティビスト、エフィッシモが株式を取得したことが明らかになっている。
日産車体の親子上場を解消するよう求めることが背景にありそうだが、日産の経営陣に揺さぶりをかける可能性もある。
内田氏は当面、難しいかじ取りが求められるだろう。
取材・文/不破聡 写真/Shutterstock