日産の山積する経営課題を引き継いだ内田氏
日産は2020年3月期に6712億円という巨額の純損失を計上したが、これは日産自動車のカルロス・ゴーン元会長の負の遺産とも言うべきものだ。
ゴーン氏は2017年に日産、三菱、ルノーの3社連合で2022年までにグローバル販売台数を1400万台に拡大すると公言。
当時の販売台数は1061万台であり、大胆な販売戦略の引き上げ策を打ち出した。
しかし、それが無茶なものだったことは、数字が物語っている。
2020年3月期の巨額損失の主要因が5220億円もの事業用資産の減損損失だ。将来の台数見通しに基づき、生産能力が余剰であるために減損損失を出さざるを得なかったのだ。
ただし、この会計処理によって減価償却費が削減されて利益が出やすい状態となった。
ゴーン氏は失脚し、2019年12月に内田誠氏がCEOに就任。2020年5月に収益性を重視する事業構造改革計画「Nissan NEXT」を発表し、2024年3月期に営業利益率を5%にするという目標を掲げた。
生産能力と車種数をそれぞれ20%引き下げ、北米などのコアマーケットに集中して一般管理費も削減するというものだった。
日産は2024年3月期に営業利益率が4.5%となり、目標に近い水準まで高まった。一定の成果を出したのだ。
2024年3月に中期経営計画「The Arc」を発表。100万台の販売増などを目標に掲げ、構造改革からの反転攻勢に打って出たのだ。
ゴーン氏と内田氏が販売台数の増加にこだわった背景にEVがある。
日産は2010年に世界初の量産型電気自動車リーフを発売し、この領域での先駆者となった。
ゴーン氏による典型的なトップダウン型の意思決定で始まったプロジェクトである。
リーフをはじめとしたEVの開発や製造には巨額の投資が必要であり、販売台数を拡大して収益性を高め、次世代車の技術開発に必要な資金を確保する必要があった。
2015年にはテスラがModel Xの出荷を開始するなど、EVを取り巻く環境は大きく変化していたため、ゴーン氏にも焦りがあったはずだ。