「ドレスを着たトランプ」
※筆者は「ターニング・ポイント・USA」という保守派団体が主催する大会を取材している。
登壇者たちが主張するのは、保守思想の重要性、そして、彼らが国を滅ぼすと考えている左派に対する辛辣な批判だ。同じような内容の演説が、朝から夕方まで延々と続く。会場に集まった人たちにとっては、お気に入りの政治家や活動家が次々に出てきて心地良いことを言ってくれるのだから、気分は最高だっただろう。
登壇者の話は似ている点が多いので、ここでは1人だけ取り上げる。保守系メディア「FOXニュース」で長年キャスターを務めてきたことで知られるタッカー・カールソン氏だ。
カールソン氏は、2023年8月に共和党の主要大統領候補者によるテレビ討論会が開かれた際、討論会を欠席したトランプ前大統領のインタビューを行い、討論会当日にその内容を公開した人物だ。
このことからだけでも、トランプ氏にいかに信頼されているかがわかる。さらに2024年に入ってからは、ウクライナ情勢の先行きが見通せない中、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の単独インタビューを行った。
バイデン大統領がプーチン大統領への批判を続ける中でのインタビューの実現は、トランプ前大統領とプーチン大統領のコネクションが今も存在することをうかがわせるということで、アメリカでは物議を醸した。
カールソン氏は、集会の初日に登壇した。演説の中で取り上げたのは、先に触れたアリゾナ州知事選挙だ。選挙は、会場に集まる保守派が支持するケリー・レイク氏と民主党のケイティ・ホッブス氏が激しく争った結果、レイク氏が敗れた。
しかし、レイク氏は、選挙は不正だと主張し続け、敗北を認めていなかった。カールソン氏は、「選挙は盗まれた」というレイク氏の主張を擁護した。
「ケリー・レイク氏はとてつもない才能のある人物です。私は投票用の機械に大いなる懸念を持っています。電子投票には完全に反対です。大きなリスクです。もしも、民主主義が大切だと考えているのならば、なぜ投票に機械を使うのでしょうか。極めて多くの不正が行われてきたことを私たちは見てきました」
レイク氏が知事選挙について敗北宣言をしたというニュースは見た記憶がないが、そうこうしているうちに、レイク氏は、次は2024年11月の大統領選挙と同時に行われる上院議員選挙にアリゾナ州から立候補することを目指すと表明した。
2024年、アリゾナ州では、大統領選挙の候補者としてのトランプ氏と「ドレスを着たトランプ」のレイク氏の揃い踏みが、支持者たちを大いに沸かすことになるのだろうか。
アリゾナ州は、共和・民主両党の支持が拮抗するいわゆるスイングステートの1つだ。もし実現すれば、彼らのツーショットと支持者たちの歓声は、選挙報道の注目点の1つになるだろう。