大部分のサプリメントは無意味

サプリメントで本当に健康になれるのであれば、それに越したことはない。

それではサプリメントと健康の関係について、エビデンスの観点からはどのようなことが分かっているのだろうか。

結論から言うと、健康にメリットがあると考えられているサプリメントは数少ない。サプリメントの市場規模が大きいこともあり、それによって利益を生み出そうとしている企業がたくさんある。

これらの企業が積極的に研究に資金提供していることもあり、サプリメントに関しては様々な研究[*2]が行われているが、その大多数が期待されたような効果を得られていない。

代表的な例を挙げて見てみよう。

おそらくいま世界で最も活発に研究が行われているのが、オメガ‐3脂肪酸とビタミンDの2つであろう。

オメガ‐3脂肪酸とはαリノレン酸(ALA)、エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)など、魚やナッツ類に含まれるいわゆる「健康に良い油」のことである。

魚やナッツ類の摂取量が多い人ほど心筋梗塞や脳梗塞など動脈硬化で血管が詰まる病気のリスクが低いということは複数の研究結果で証明されているため、オメガ‐3脂肪酸がその要因となる成分なのではないかと考えられ、研究が進められてきた。

2018年にコクラン(世界中の研究者と協働でエビデンスを統合し発表する、英国を本部とする研究チーム)によってオメガ‐3脂肪酸に関するエビデンスが統合され、検証[*3]された。

オメガ‐3脂肪酸に関して79の実験(総勢11万2059名の被験者)が同定され、そのうち25の研究が質が高いと評価され検証された。

その結果、オメガ‐3脂肪酸を摂取しても心筋梗塞などによって死亡する確率は変わらないと結論づけられた。

もっと詳しく見てみると、ALAの摂取によって心臓の不整脈のリスクが3.3%から2.6%へとごくわずかに下がる可能性が示唆されたが、効果があまりに小さかったため、研究者たちはオメガ‐3脂肪酸の心臓へのメリットはほとんどないと結論づけた。

さらに、2019年にVITAL試験と呼ばれる2万5000人以上が被験者となった大規模な実験[*4](この研究はオメガ‐3脂肪酸とビタミンDの両方の効果が評価できるようデザインされていた)の結果が報告されたが、やはりオメガ‐3脂肪酸のサプリメント摂取によって、がんおよび心筋梗塞のリスクは下がらなかった。

では、昨今期待されているもう1つのサプリメントである、ビタミンDはどうだろうか?

残念ながら、ビタミンDに関しても、まだ「健康上のメリットがあるというエビデンスはない」というのが結論であるようだ。

2014年に発表されたコクランの検証[*5]では、159の実験結果が同定され、そのうち56の研究の質が比較的高く、評価可能であるとされた。

その結果、高齢者に限りビタミンD3(ビタミンDは、キノコ類に含まれるビタミンD2と、魚に含まれるビタミンD3に分けられる)によって死亡率が下がる可能性が示唆されるものの、研究の質が全体的に低く、ビタミンD摂取による健康上のメリットははっきりしないと結論づけられた。

ビタミンDやカルシウムのサプリメントが、骨折の予防になるのか、という観点においても、エビデンスが不十分で、ビタミンD摂取による健康上のメリットがあるともないとも言えないと結論づけられた。

そもそもビタミンDは日光を浴びると皮膚で合成されるため、サプリメントで摂取しなくても日光を浴びれば良いという説もある(もちろんそれでもビタミンDの量が不足するのでサプリメントが必要という意見もあるが……)。

大部分のサプリメントは無意味! 日本だけで1兆円の市場規模も医学的なエビデンスはなし_2

前述の最新のVITAL試験では、ビタミンDサプリメントの健康への影響も評価[*6]されたが、偽薬(何の効果もない偽物の薬)と比べてがんや心筋梗塞を引き起こすリスクは変わらないという結果であった。