競技団体と課題を共有し共に解決へ向かう

かんぽ生命の車いすテニス支援は資金面にとどまらず、競技団体との連携で課題を共有し解決に乗り出している点に特長がある。

近年、力を入れているジュニア世代の選手支援は最たるもので、浅倉さんのもとで事業を推し進めるサステナビリティ推進部課長代理の佐々木晴香さんは「トップパートナーになって5年経った2023年に、改めてどんな支援ができるかをJWTAさんと相談し、ジュニア選手の育成と強化に課題があるとお聞きしました」と発端を振り返る。

国枝や小田、上地らに続く国際競争力の高い選手をいかに継続して輩出するか。本来、選手の育成・強化は競技団体の役割ではあるが、海外遠征や合宿などにかかる活動資金は潤沢とは言えないためパートナー企業のサポートが必須である。JWTAとかんぽ生命が考えた打開策の手始めが、日本国内で国際テニス連盟(ITF)の公認大会を開くことだった。

「私たちがトップパートナーとなった2018年から『かんぽ生命カップ』という大会を開催していて、ワールドチームカップ(世界国別対抗戦・団体戦)のジュニア代表選考会を兼ねていました。

2019年大会では当時13歳だった小田選手が優勝し、「2021BNPパリバ・ワールドチームカップ」に出場して初めて世界一になったりもしましたが、中にはITF世界ランキングポイントが足りず、ワールドチームカップの代表になっても出場できない年もありました。

これをどうにかしようとJWTAさんがITFに熱心に働きかけ、世界ランキングポイントを獲得できるITF公認大会として『KAMPO JUNIOR OPEN』(18歳以下対象)を新設し、2023年8月に福岡県飯塚市で第1回大会の開催にこぎつけました」(佐々木さん)

競技団体と連携し、ジュニア選手の育成と強化を目的に作られた「KAMPO JUNIOR OPEN」=提供写真
競技団体と連携し、ジュニア選手の育成と強化を目的に作られた「KAMPO JUNIOR OPEN」=提供写真
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国際競技団体の公認を得るのは容易ではない。しかし、現状を変えたい一心で両者は共に汗をかき、強力なタッグで困難を可能にした。

ジュニア選手の自立と多様な経験を促すプロジェクト

ジュニア選手に海外経験を積んでもらうことを目的に「次世代特別強化支援プロジェクト」も立ち上げた。KAMPO JUNIOR OPENの結果も踏まえて、選手を国際大会に派遣する新たな取り組みだ。

「同行するのはナショナルチームのコーチのみで親御さんは付き添いません。車いすユーザーの我が子を心配する声もあったようですが、選手の自立を促すというJWTAさんの趣旨に私たちも賛同しました」(佐々木さん)

多感な時期の子どもたちの海外派遣には他の国や地域の選手たちとの交流を通じ、多様な文化や言語、マナーを学べるメリットもある。「次世代特別強化支援プロジェクトは心技体すべてで世界に通じるアスリートの育成を目的にしています」と佐々木さん。

ちなみに2023年と2024年大会を連覇した16歳の橘龍平は、本プロジェクトを通じて2023年12月にトルコで開かれたITF公認大会に出場。2024年5月、ジュニア代表チームの一員として出場した「2024BNPパリバ・ワールドチームカップ」トルコ大会では銅メダルに輝いた。

さらにKAMPO JUNIOR OPENで2度目の優勝を果たした今年7月、世界ジュニアランキングを12位から10位に上げて世界のトップ10圏内に入った。

「小田選手のようなトップ選手が世界で活躍する姿を見て、それに続こうと頑張る若い選手たちが自分たちもそのレベルまで行けるんじゃないかと希望を持ってくれる。それが非常に嬉しいですし、日本全体のレベルも上がっていると思います」と目を細めるサステナビリティ推進部部長の浅倉さん。

その表情には単なるスポンサーの枠を越えたアスリート愛がにじみ出ている。

▶【後編 】車いすテニスからラジオ体操まで!かんぽ生命のスポーツ愛 を読む

写真/越智貴雄[カンパラプレス]・ 文/高樹ミナ

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