「もし映像化するなら主人公は誰だろうね」「綾野剛さんですよ」

──なるほど。フィッシング詐欺の被害分のお金は返ってきましたか?

全国銀行協会が不正利用された人の救済措置を定めていて。被害に遭ってすぐ被害届を出しているとか、警察に相談しに行ってるとか、犯罪者集団と関わりがないとか、いくつか条件を満たすと救済してもらえるんだけど、それで銀行から67万円を返してもらえました。

──犯罪者集団との関わりはないんですね。

ないよ。詐欺師っぽい顔だっていわれるけど。芥川賞作家の西村賢太さんと亡くなる直前に雑誌の企画で対談したときなんて、本を持っていってサインしてもらったら、俺の名前の下に「隠しても隠しきれない反社の香り」って書かれたよ。なんだそれって。

故・西村賢太氏から「隠しても隠しきれない反社の香り」と評された新庄耕さん
故・西村賢太氏から「隠しても隠しきれない反社の香り」と評された新庄耕さん

──(笑)。地面師詐欺の次は、フィッシング詐欺の小説を描いたりはしないでしょうか?

どうかな。スマホでポチポチやってるフィッシング詐欺に、地面師みたいな物語性があるのかな。

──そもそも『地面師たち』を描いたきっかけはなんだったんですか?

当時担当の稲葉氏がこの企画を提案してきたんだよ。(※註:稲葉=集英社の編集者。新庄耕のデビュー作『狭小邸宅』をはじめ、『地図と拳』(小川哲著)や『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』(麻布競馬場著)等を担当)

──それで描き始めたんですね。

渋谷のセルリアンタワーのラウンジで「冒頭でまず小さな詐欺を描いて、そのあとにでっかい事件をやりましょう」みたいな打合せをしたんだよ。A4の紙にメモしながら、だいたい1、2時間くらい。そのプロットがほぼそのまま小説になったね。

──1、2時間の構想が、今やNetflixで全世界に。

もっとおもしろいのが「もし映像化するなら主人公は誰だろうね」って話をしたら、稲葉氏が「綾野剛さんですよ」って言ったんだよ。

──それがまさに実現したんですね。

その話を綾野剛さんご本人に伝えたら、めちゃくちゃ喜んでくれて。しかしやっぱスターは違うね。豊川悦司さんもそうだけど、かっこよすぎる。この前、文芸誌で綾野さんと豊川さんと鼎談やったけど、かっこよすぎて直視できないから俺ずっとテーブル見てたもん。

──新庄さんも『地面師たち』の俳優の1人として出てきても違和感ないほどの強面だと思います。

いやいや。今回もいくつかYouTubeにゲストで呼ばれて出たけどさ。俺は自分が出てる動画とか嫌で見れないよ。後から「YouTubeどうだった?」って担当者に聞いたら、「反社っぽい人がモゴモゴ聞き取れない感じでしゃべってる」って言われて。なんだそれ。全然駄目じゃねぇかよ!

「反社っぽい人がモゴモゴ聞き取れない感じでしゃべってる」と言われ傷心する新庄耕さん
「反社っぽい人がモゴモゴ聞き取れない感じでしゃべってる」と言われ傷心する新庄耕さん