「『ビルが昔の造りだから』という理由だけで、済ますつもりはない」

地元消防団に救出されたときには、長女は低体温症で亡くなっていた。その後、大阪消防隊が駆けつけ妻を救出したが、すでに圧迫死していたという。

「娘はまだ生きていたんだよ。低体温症っていうけど、『消防団が温めておけば』『もう少し早く助けてくれれば』ってどうしても思ってしまう。一生懸命やってくれたのはわかっているんだけど。

五島屋ビルにしたって、なんで倒れたんだよって思ってしまう。倒れないように打たれたはずの杭が折れるって……何のための杭ってことになるじゃないか」

現在、楠さんは神奈川県川崎市で居酒屋「わじまんま」を営業している
現在、楠さんは神奈川県川崎市で居酒屋「わじまんま」を営業している

災害による被害が甚大な場合、市町村が建物の解体・撤去を所有者に代わって行う「公費解体」という制度があるが、これが本格的に始まったのは6月から。五島屋ビルの所有者・五嶋躍治氏は公費解体の申請を出しているが、実施についての目処は立っていない。

杭基礎(くいきそ)で支えられていた建物が地震で倒壊するのは、国内で初めての事例の可能性もある。国土交通省は、倒壊に至った経緯を現在調査中だ。

五島屋ビルに関して、近隣住人に輪島市に対して何か要望はあるか聞いてみたところ「倒壊したビルの前は幹線道路になっているので、個人的には早く撤去をしてほしい」と話す(写真/幸多潤平)
五島屋ビルに関して、近隣住人に輪島市に対して何か要望はあるか聞いてみたところ「倒壊したビルの前は幹線道路になっているので、個人的には早く撤去をしてほしい」と話す(写真/幸多潤平)

 楠さんが、現状について次のように語る。

「国は俺のために調べるんじゃなくて、今後のために調べる。だから、俺は俺で調べなきゃいけないと思って、構造建築士に依頼して調査している。一方で、輪島市は倒れたビルの道路にせりだしている部分をすぐ解体したいということだった。輪島市はとにかく道路を繋げたいという思いなんだけど、俺は『2人も亡くなっているんだから待ってくれ』って言っていた。

株式会社五島屋の代表取役社長・五嶋躍治氏に電話で話を聞いてみると、取材は受けられないとしながらも、解体作業の時期については「ビル倒壊後は国土交通省建築研究所に入ってもらっている。公費解体は申請していて、あとは市役所が処理していると思うが、いつ解体されるかはわからない」とした。また、遺族との話し合いに関しては、「代理人弁護士を通しての話し合いになっていますので、一切取材は受けられない」とのことだった(写真/幸多潤平)
株式会社五島屋の代表取役社長・五嶋躍治氏に電話で話を聞いてみると、取材は受けられないとしながらも、解体作業の時期については「ビル倒壊後は国土交通省建築研究所に入ってもらっている。公費解体は申請していて、あとは市役所が処理していると思うが、いつ解体されるかはわからない」とした。また、遺族との話し合いに関しては、「代理人弁護士を通しての話し合いになっていますので、一切取材は受けられない」とのことだった(写真/幸多潤平)

誰も犠牲が出てなければいいけど、犠牲が出ている以上、何が原因だったのかすべてを知りたいだけなんだ。目をつむると、すぐにあのときの光景が浮かんでくる。夜眠るときだって、目を閉じられない。だから、寝落ちするまで携帯や天井を見ているんだ。俺は生かされてしまった。だから、原因を知る責任だってある。『ビルが昔の造りだから』という理由だけで、俺は済ますつもりはない」