知ってもらいたい、「奇想」じゃないほうの系譜

右は著者の辻惟雄氏。左は辻氏の東京大学教授時代の教え子である山下裕二氏
右は著者の辻惟雄氏。左は辻氏の東京大学教授時代の教え子である山下裕二氏
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山下裕二(以下、山下) 今回の本の原稿、第1~4講を読ませていただきました。第3講までは大づかみな絵画史ということで、やまと絵、狩野派という近世までの「和」「漢」の流れ、そして江戸時代中期の円山応挙(1733~1795)についてかなり詳しくお話しになっていますね。

辻惟雄(以下、辻) 最初はインターネットの記事用に展覧会の解説を、というような依頼だったと思うんだけど、円山応挙、その弟子の長沢芦雪(1754~1799)、やまと絵、それから狩野派と話していくうちにね、どうもこれは『奇想の系譜』を相対化する意図があるらしいぞ、と気づいたんです。

『浜松図屛風』(左隻) 重要文化財 室町時代・15~16世紀 六曲一双 東京国立博物館蔵 画像出典:ColBase
『浜松図屛風』(左隻) 重要文化財 室町時代・15~16世紀 六曲一双 東京国立博物館蔵 画像出典:ColBase
伝狩野元信『楼閣山水図屛風』 重要美術品 室町時代・16世紀 六曲一隻 東京国立博物館蔵 画像出典:ColBase
伝狩野元信『楼閣山水図屛風』 重要美術品 室町時代・16世紀 六曲一隻 東京国立博物館蔵 画像出典:ColBase
円山応挙『松に孔雀図襖』 重要文化財 江戸時代・18世紀 大乗寺蔵
円山応挙『松に孔雀図襖』 重要文化財 江戸時代・18世紀 大乗寺蔵

山下 いや、きっと最初の応挙からそういう目論見があったんじゃないですか(笑) 。いってみれば、第1〜3講の裏テーマは、「奇想じゃない系譜」ですよ。

 そうなんだよ。奇想の向こう側にあるもの、というのか……。

山下 昨今は、日本美術というと『奇想の系譜』で先生が紹介された伊藤若冲(1716~1800)や曽我蕭白(1730~1781)らをはじめとする、「奇想」の画家のほうに人気が偏っています。しかし、やまと絵や狩野派といった「正統派」という本筋の存在があって「奇想」もあるわけだから、正統派についても辻先生の見方を知りたい、ということなんでしょう。