ひきこもる兄のせいでフラれ続ける
間野さんは兄のことを“恥”だと思っていたので地元の友人にも隠していた。だが、交際相手には黙っているわけにいかない。結婚を意識するようになり思い切って打ち明けたら、こう言われた。
「お兄さん、どうするの?」
間野さんは「言わなきゃよかった」と後悔したが、時すでに遅し。
「予想はしていたから、ずっと言えなかったんだけど、相手から見たら兄はお荷物ってこと。結婚相手としては超マイナスポイントですよね。そう言われるともう自然消滅です。僕からは連絡取らなくなりました」
しかも1度だけではない。兄の存在が原因でフラれることが2度、3度と続くとダメージを受け止めきれなくなる――。
「精神的には強いつもりだったけど、カラダに出ちゃったんでしょうね。こんな話していいのかわからないけど、勃起しなくなって自分でもビックリしましたよ。
自分が20代のころはまだ他人事だったけど、自分の年齢が上がるにつれ兄の存在がどんどん重荷になってきて……。それで、もう兄を背負うのは嫌だな、手放したいなと考えて、迷走が始まるわけですよ」
30代後半に入ったころ、間野さんはあるスクールの創始者に2度相談に行った。スパルタ式の指導で不登校やひきこもりの青少年を矯正させたとして話題になった教育者だが、訓練中に生徒を死亡させて刑事事件にもなった、いわくつきの団体でもある。入学金が300万円、月謝が12万円かかると説明されたが、「悪徳支援業者に比べたら良心的だと思った」とあっさり言う。
「そこで立ち直るか、もし何かの兄の不注意などで溺れて死んじゃっても、それまでだと思ったりして……。ただ、本人をスクールのある太平洋側まで自力で連れて行くのが条件だったんですよ。日本海側の長岡市から40代半ばの兄を縛り付けて車に乗せるという想像まではしたんですけどね。やっぱり連れて行くのは面倒くさいなと思って(笑)、断念しました」
一度は「兄が死んでもいい」と突き放しかけた間野さんだが、父親とのあるやり取りをきっかけに、再び兄と向き合うことになる――。
〈後編へ続く〉『ひきこもりの兄を持つ57歳男性「不妊治療をやめたら、1つ道が閉ざされた感じがした」家族にぶつけた怒りの矛先…突然の父親の死から向き合った初めての人間関係』
取材・文/萩原絹代