イスラエルはガザの全市民を虐殺しない限り勝てない
内藤 ようやく今(※2023年12月時点)になって、「民間人への犠牲を最小にするような攻撃をしてほしい」ということは言っていますけれども、止めろとは言わない。
停戦させようとして国連の安全保障理事会で協議したときも、シーズファイア(ceasefire:停戦)とは言わないわけですよね。「シーズファイアはダメだ」と。意味がわからないですよね、あの理屈は。ヒューマニタリアン・ポーズ(humanitarian pause:人道的一時停戦)ならいいと。
「pause」なら良くて、「ceasefire」はなぜダメなのか、世界に向かってちゃんと説明できるのか。そのような馬鹿げた理屈の中で、「いや、シーズファイアと言ったらハマスを利することになる」と言うわけです。そんなまったく論理として成り立たないことが主張されて、殺戮が進行中というのが現状です。
もう一点お話しさせていただくと、ではガザ側は、この状況をどう見ているのか。
当初、戦争が始まる前の段階では、ガザ市民は必ずしもハマスを支持していなかった。しかし、戦争が始まって日が経つにつれて、ガザの人は、これ以上失うものがないところまで追いつめられてしまいました。
この状況下で、イスラエルに対して何らかの妥協をする、あるいは、ハマスに降伏してほしいとかいうことは、まったく考えてないだろうと思うのです。今、降伏しても、何も得られないわけですから。
10月7日、攻撃の当初の段階では、「ハマス」という単語がガサの人が発信する文章の中でも主に使われていたんですけど、その後、変わってきました。現在は「ハマス」と呼ばず総称で「パレスティニアン・ファイター(パレスチナの戦士)」、あるいは、「レジスタンス・ファイター(抵抗の戦士)」と表現するようになった。
もちろん、戦士の中にはいろんなグループがあり、ハマスもその中の一つなのですが、身を挺してイスラエルと戦っているハマスを支持しないとか、批判するとかいうことは、現状ではありえないということです。
こういう意見は、私がコンタクトしている範囲の人ですから、総意だとは言いませんけれども、多分、今の状況からすると、ガザ市民が妥協して、ハマスから離れる、あるいは、戦後はハマス抜きの統治というものを考えるなどという欧米の思惑は、まったく通用しない。
10・7以前は、ガザ市民の中にも、ハマスのイデオロギーを嫌っている人はいました。しかし、本人がハマスでなくても家族の中にハマスのメンバーがいることは珍しくない。親族の中に、近所の人の中にいるわけです。
その人たちが戦っている現状で、今さら彼らを裏切って、たとえば「PA(パレスチナ暫定自治政府)が表に出るべきだ」とか、「ハマスのような暴力的な路線は捨てるべきだ」とか、ガザの人が思うかといえば、それはありえないですね。そうなると、イスラエル側はますますエキサイトしていきますから、さらに攻撃を強めることになる。
結論を言うと、イスラエルは勝てません。ガザの全人口、約220万人の市民を、本当に虐殺する気なら話は別ですけれども、そんなことはできるわけがないですし、市民、特に子どもや女性を犠牲にすればするほど、ガザの一般市民の男性はすべてがジハードの戦士となってしまう。
人口の半分が男性として、イスラエルは100万人以上も殺さないと勝てない。それは不可能です。ですから、イスラエルはどこかで、ハマス、過激派抜きのガザができるなら停戦してやろうと言い出すでしょう。
しかし、無駄なことです。2023年末のハマス戦闘員を皆殺しにしても、2024年には新しい戦士(それがハマスであろうとなかろうと)が誕生するだけです。