シファ病院への攻撃は本当に正当性があるのか?

三牧 イスラエルが主張する、不確かな情報とそれに基づく攻撃にアメリカが全幅の支持を与える。この構図が繰り返されたのが、ガザ最大の病院、シファ病院への攻撃でした。イスラエル軍は「地下にハマスの司令部が存在している」と断定し、病院の封鎖と攻撃を続け、多くの医療従事者や患者、新生児を死に追いやりました。

しかし、現在に至るまでイスラエル軍が提示してきたのは、複数のカラシニコフ・ライフル、ガザ地区ではありふれているトンネルの入り口くらいで、シファ病院にハマスの司令部が存在することを示す確固たる証拠を提示できていません。

戦時の文民保護について定めたジュネーヴ条約(1949年)は、「病院がその人道的任務から逸脱して敵に有害な行為を行なうために使用された場合」を除き、病院への軍事作戦を禁じています。

同条約は、「傷者若しくは病者たる軍隊の構成員がそれらの文民病院で看護を受けている事実又はそれらの戦闘員から取り上げられたがまだ正当な機関に引き渡されていない小武器及び弾薬の存在は、敵に有害な行為と認めてはならない」とも定めています。

イスラエルのシファ病院への軍事行動が、これらの要件を満たしていないことは明白です。攻撃する前に民間人を避難させる努力もまったく不十分でした。イスラエルはジュネーヴ条約には加入、その追加議定書(1977年)には不加入ですが、これらは慣習法であり、遵守するという立場を打ち出してきました。今回の病院攻撃も、国際法違反ではないと主張しています。

2023年10月 イスラエルの空爆を受け煙が上がるガザ 撮影Anas-Mohammed
2023年10月 イスラエルの空爆を受け煙が上がるガザ 撮影Anas-Mohammed
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アメリカは一貫して、シファ病院はハマスによって軍事利用されているというイスラエルの主張を支持してきました。国家安全保障会議(NSC)のジョン・カービー戦略広報調整官は、「アメリカは病院を空から攻撃することは支持しない」と留保した上で、「ハマスがシファ病院を軍事作戦の拠点として利用している事実を裏づける情報を確保している」と述べました。

しかし、それがどのような情報なのか。本当に、病院を攻撃するという例外的な事態を正当化しうるほどに確かなものか。今に至るまでアメリカ政府も示していません。


写真/Shutterstock

自壊する欧米 ガザ危機が問うダブルスタンダード
内藤 正典 三牧 聖子
自壊する欧米 ガザ危機が問うダブルスタンダード
2024年4月17日発売
1,100円(税込)
新書判/288ページ
ISBN: 978-4-08-721311-9

中東、欧州移民社会研究の第一人者と新進気鋭のアメリカ政治学者が警告!
ガザのジェノサイドを黙殺するリベラルの欺瞞が世界のモラルを破壊する。

もう、殺すな!

◆内容◆
2023年10月7日、パレスチナ・ガザのイスラム主義勢力ハマスが、占領を強いるイスラエルに対して大規模な攻撃を行った。
イスラエルは直ちに反撃を開始。
しかし、その「自衛」の攻撃は一般市民を巻き込むジェノサイド(大量虐殺)となり、女性、子供を問わない数万の犠牲を生み出している。
「自由・平等・博愛」そして人権を謳(うた)いながら、イスラエルへの支援をやめず、民族浄化を黙認し、イスラエル批判を封じる欧米のダブルスタンダードを、中東、欧州移民社会の研究者とアメリカ政治、外交の専門家が告発。
世界秩序の行方とあるべき日本の立ち位置について議論する。

◆目次◆
序 章 イスラエル・ハマス戦争という世界の亀裂 内藤正典
第1章 対談 欧米のダブルスタンダードを考える
第2章 対談 世界秩序の行方
終 章 リベラルが崩壊する時代のモラル・コンパスを求めて 三牧聖子 

◆主な内容◆
・パレスチナ問題での暴力の応酬と「テロ」
・ガザから世界に暴力の連鎖を広げてはならない
・ダブルスタンダードがリスクを拡大する
・戦争を後押しするホワイト・フェミニズム
・反ジェノサイドが「反ユダヤ」にされる欧米の現状
・アメリカとイスラエルの共犯関係
・ドイツは反ユダヤ主義を克服できたか
・「パレスチナに自由を」と言ったグレタさんに起きたこと
・反ユダヤ主義の変奏としての反イスラム主義
・民主主義のための殺戮の歴史を直視できない欧米の問題
・バイデンとシオニズム
・トランプとバイデン
・欧米がなぜか不問に付すイスラエルの核問題
・誰がイスラエルの戦争犯罪を止められるのか?
・「人殺しをしない」を民主主義の指標に

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