デベロッパーの連鎖倒産による金融危機

中央政府にとっては、いかにして金融危機を回避するかが重要な課題になる。不動産バリューチェーンの関係者は救済を期待するだろうが、中央政府はその全員を助けることはできない。

誰を優先的に救済するかについてプライオリティを決めることが重要になってくる。中国は透明性のない社会なので、各々の関係者は政府とのバーゲニングとロビー活動を強めるだろう。

そのなかでもっとも不利な立場に立たされるのは、マイホームを買った個人と、不動産デベロッパーの理財商品を買った個人投資家である。独裁政治の政府救済計画において、個人はいつも劣後になる。むろん、彼らも黙っているわけではなく、グループとなって抗議活動を展開し、政府に圧力をかける。

政府にとってもっとも心配しなければならないのは、デベロッパーの連鎖倒産が起こることである。目下、中国政府のなかでは、すべてのデベロッパーを救済するのではなくて、救済するデベロッパーと救済しないデベロッパーをわけた「ホワイトリスト」が作成されているといわれている。

この件が報道され、現在はデベロッパーによる政府機関へのバーゲニングが盛んになっていると思われる。救済するデベロッパーと救済しないデベロッパーの線引きの基準がはっきりしないというモラルハザードが起こる可能性も高い。

政府がデベロッパーを救済する条件として、創業者あるいは経営者に経営権の譲渡を求めることもあり得るだろう。

国有企業による吸収・合併となるだろうが、その後の不動産開発がうまく行く保証はない。そのほかには、国有銀行による融資の増額でキャッシュフローの難関を乗り切るやり方も考えられる。

歯止めの効かない中国の「不動産倒産連鎖」についに政府が「救う会社、救わない会社リスト」を作成…これから中国経済が直面する“失われた30年”_1
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しかし、銀行融資の増額は経済危機の根本的な問題解決にはならない。逆に採算性を度外視する、ソフトな予算制約が引き起こすモラルハザードは、経済効率をさらに悪化させる心配がある。

経営難に陥ったデベロッパーにとって、政府の指導に基づいた国有銀行のレスキュー融資はフリーランチのようなもので、このような融資はデベロッパーの経営を改善することにほとんど寄与しないと思われる。

中国で不動産バブル崩壊のリスクが囁かれるようになって久しいが、政府、国有銀行、デベロッパーと個人はいずれもきちんとリスクに備えてこなかったようだ。筆者は講演などでよく「中国は日本のバブル崩壊からきちんと学んだのではないですか」と質問されるが、そうとは思えない。

多くの中国人にとって30年前の日本の資産バブル崩壊は、単なる対岸の火事に過ぎない。「備え有れば、患いなし」という諺を考えた中国人の祖先に比べれば、今の中国人はリスクに備える意識が薄いようだ。