借金取りと雑草の卵とじ炒め
俺は、大人になってからも、家電の音が苦手だ。
「家電の音が苦手ってどういうこと?」とお思いだろう。でもなんか、嫌なのだ。なんか、怖いのだ。……昔を、あの中一の一人暮らしになってすぐの"あの電話"を、思い出すから。
ジリリリリリン!
夜の7時半を過ぎた頃、家の電話がけたたましく鳴った。中一になって一人暮らしを始めた頃、うちの家電は、もう毎日毎日何度も何度も鳴った。ほとんどが同じ内容の電話。借金取りからの電話だ。
借金は親父のものだ。だから俺が電話に出ると、借金取りは親父はいるか? と聞いてくる。のだが、親父は随分前にこの家から離脱しているため、たまーーーにしか帰ってこない。
当然「いない」と言うしかない。でも、何度も何度も「いない」というと、借金取りはそれを嘘だと思って、ブチキレてくる。
「毎日毎日いないわけねーだろ‼」
怒鳴り声と同じタイミングで、バリンと窓ガラスが割れる音がした。おいおい、家の裏庭から電話してきてんのかよ!だったら分かるだろ、毎日毎日いないんですよ……!
「ありえねーだろ!ずっと親父が家にいねーとか!」
あり得るんですよ、うちの親父はありえない親父だから。
まあ、どれだけ脅されたところで、本当にいないのだから「いない」と言うしかない。で、またブチキレられる。それの繰り返し。それがもーー嫌で嫌でたまらなかった。
そんなある夜、俺は大変に困っていた。何にって、金にだ。
この月、いつも仕送りとして親父の姉、つまり俺の伯母さんである〝かっちゃん〞から貰っていた仕送りをほぼ使い果たしてしまっていた。理由は漫画の買い過ぎ。完全にやらかした。次の仕送りまではあと4日ある。
かっちゃんから借りる……のは絶対に嫌だ。
「金がなくなった」とかっちゃんに言えば、なぜそんなことになったのか問い詰められることは間違いないし、それで漫画買い過ぎたなんて言ったもんならもう烈火の如く叱ってくることも間違いなかったし、何より心配させるのが嫌だった。別にそれはかっちゃんへの優しさとかではない。ただ心配されるのはカッコわりぃと思えてならなかったからだ。
カッコわりぃのだけは絶対に避けたい。だから絶対にかっちゃんには金のこと相談したくない。でもなんとかあと4日ほど飯を食わなきゃいけない……というか、今、この瞬間がもう腹が減り過ぎてやばい。今日の晩飯をどうするか。米はあるが、米だけであと4日過ごすのもキツい。
こんな時どうするか。方法は……ある!
俺は金のない時の食材の調達方法を、小学生の頃に既に習得済みだった。小学生の頃、一度だけ1ヶ月をほぼグミだけで過ごさなければならなくなったことがある(なぜそんなアホみたいなことになったのかは是非本編をご覧いただきたい)。その時に、グミだけではどうしても辛くて、食べられる野花を調べて、それを採取することでなんとか凌いだことがあるのだ。
今回もそれでいくしかない。