中国・国民党に対して複雑な感情を持っている
日本統治によって中国と切り離されて、日本人とは完全に一体化しなかったというところで、台湾人という存在が浮かび上がった。
その認識が社会に広まったころの第二次世界大戦後に、中国本土から国民党がやってきます。
しかしながら、日本的な文明化された教育を受けてきた台湾の人々は、彼らに対して複雑な感情を持ちます。彼らが台湾で見せる言動があまりに前近代的で、野蛮に映ったからです。高いレベルの教育を受けた一部の層は「われわれのほうが優れている」と考えました。
一方で、権力的には国民党から抑圧されてしまう。その結果、彼らのなかには「やはり自分たちは台湾人なのだ」という意識がさらに強くなっていきます。
ただ、38 年間続いた戒厳令と独裁体制のなかで、台湾において台湾アイデンティティを明確に理論化し、世に発表することは不可能でした。そこで海外亡命者や海外留学者のなかから台湾の独立運動が立ち上がるわけです。
民主化する前の台湾でも、中国のことより、台湾の文化や社会を大事にしようという動きはありました。ただ、独立などの思想を育むところまではいかなかった。当局が睨みを利かせてもいました。
それが、民主化した後に海外で独立運動をしていた人々は台湾に戻れるようになり、自分たちのリーダーを決める選挙も回数を重ねていくにつれ、やはり自分たちは台湾人だ、昔は関係があったかもしれないが今は中国とは別なんだ、という台湾アイデンティティが徐々に成熟してきた。それがこの世論調査の結果に表れていることになります。
「天然独」世代は、独立を宣言する必要性がないと考えている
とくに1990年代以降に教育を受け、物心つくころから自分たちの指導者を選ぶところを見ながら育ってきた人たちが、20歳になれば投票権を持つようになります。
この世代の人々が「天然独」といわれる世代です。
その意味するところは「生まれながらの独立派」ということになりますね。古い世代の人々にとってみると、中国というものは克服しなければいけない存在として立ちはだかっていました。だから「われわれは独立宣言をするんだ」「中華民国を廃止する」などと考えるんですね。
しかし、天然独の世代はそのプロセスを経験していません。
ただ目の前に、当然の存在として今の台湾があるんです。
だから葛藤もなく、生まれながらにして独立──いえ、独立というよりは台湾は台湾だと思っている。だから、独立を宣言する必要性も考えない。よって「天然」なんです。
言ってみれば、天然独の人々は別に中国に対するコンプレックスもないし、そこまでの嫌悪感もないことになります。
中国へ働きに行くことにも心理的な抵抗はありません。
ただ、かといって中国に永住したいとか、中国に統一されるべきだとも考えません。
彼らにとって台湾はあくまで台湾なのです。なので、自国の独立性に影響を及ぼす行動を中国がとったときは立ち上がる。それが若い天然独世代の行動原理ということになります。