『笑ってはいけない』シリーズという大発明
松本さんのコンテンツをつくる発想力は天才と言わざるを得ません。ソフトもハードもつくることができる。『IPPONグランプリ』や『ドキュメンタル』(Amazonプライム・ビデオ)などは、企画者として天才だと思います。とりわけ私が脱帽するのが、『笑ってはいけない』(日本テレビ)シリーズです。
人間には共感力の神経とでも形容すべきミラーニューロンという神経細胞があると言われています。事故の映像などを見て、こちらまで「痛い!」と感じてしまう現象はミラーニューロンによるもので、笑いにも同じ心理が働くと考えられています。
実際に私は『エンタの神様』で何回かこの共感力の実験をしたことがありました。芸人さんの後ろにカメラをセットし、客席が映るように回したのですが、不思議なほどに全員が同じタイミングで笑っていた。みんなが笑っているからシンパシーを感じ、つられるように笑ってしまうのです。
松本さんが発明した『笑ってはいけない』シリーズは、こうしたミラーニューロンを理解した上で、あえて「笑ってはいけない」と釘を刺す。笑いをこらえることにシンパシーを覚えさせ、より面白さを演出する。笑いをこらえる姿を見て面白いと感じさせ、思わず吹き出してしまう姿を見て、視聴者もつられて笑ってしまう。笑いの二重構造とも言える、ありそうでなかった大発明です。自身が面白いコメントを発するだけではなく、こうしたハードまでつくってしまうわけですから、やはり特別な存在だと思います。
前述したように私とダウンタウンの直接的な接点は数えるほどしかありません。ですが、もしかしたら一緒に番組をつくっていた――かもしれなかった。
私が『投稿!特ホウ王国』を手掛けていた1997年だったと思います。当時のマネジャーだった、現・吉本興業ホールディングス株式会社代表取締役社長である岡本昭彦さんから、「ダウンタウンを起用して何か番組を企画してくれませんか?」と相談されたことがありました。
繰り返しますが、私はダウンタウンが大好きで、このときの数年前にラブコールを送ったほどでしたから一緒に仕事をしたかった。しかし、そのとき私は『投稿!特ホウ王国』に加え『クイズ世界はSHOW by ショーバイ!!』『マジカル頭脳パワー!!』、さらには年間15本を超える特番などを抱えていたため、まったく時間がなくお受けすることができませんでした。
当時のダウンタウンは、『ガキの使いやあらへんで!』こそ人気番組として確立されていましたが、そのほかの日テレの番組ではなかなか思うような数字を記録することができませんでした。一方、『投稿!特ホウ王国』は笑福亭鶴瓶師匠とウッチャンナンチャンが出演し高視聴率を記録していましたので、私にお鉢が回ってきたのだと思います。