レース直後は「やってしまった…」

しかし、当の本人は浮かれるどころか、「ほろ苦いデビューだった」と振り返る。

「実は実況デビューが、アナウンサー人生のなかで、一番頭が真っ白になった瞬間でした。レースのクライマックスに当たる最後の直線で、勝ち馬が猛烈な勢いで後方から追い込んできたんです。その瞬間に、メジャーレーベルという勝ち馬の名前が出てこなくなってしまって……。

手元に塗り絵(騎手の勝負服や馬名をまとめたカンペ)を置いていたのですが、緊張で咄嗟の判断が追いつかず、パニックになってしまいました。

後ろで付き添ってくれた先輩がフォローを入れてくれたので、なんとか最後の瞬間に勝ち馬を呼ぶことができましたが、プロとしては失格でした。

無事に実況デビューを完遂したが、本人は納得がいかなかったという
無事に実況デビューを完遂したが、本人は納得がいかなかったという

率直にレースが終わった後は、やってしまったという気持ちが大きかった。聞いている人にとってはわかりづらく、馬券を買っていた人にはストレスになってしまっただろうなと、申し訳ない気持ちでいっぱいでした。

当日はいつも通り競馬場に入場して、ファンファーレが鳴るまでは先輩と談笑する余裕もあったので、『これならいけるぞ』と自信があったんですけどね。いま思えば、自分が緊張していることに気づかないぐらい、内心では緊張していたのだと思いました」

調教師からのうれしいサプライズ

とはいえ前述の通り、藤原の実況はかなりの反響を呼んだ。

「実況したレースは午前中にあったので、午後はレースを終えた関係者への取材をこなす当番でした。そしたらスポーツ紙の記者の方に、『おめでとう!』と声をかけていただいて、とても温かい気持ちになりました。

しかも当日は、たまたま大学時代の放送研究会の同期が来場していたんです。その同期が、私の声だと気がついたらしく、連絡をくれたのもうれしかったです! 正直、SNSに来ていたコメントは怖くて見れなかったんです。クレームだらけだったらどうしよう……と。

翌日にメッセージを開いてみたら、『新鮮でよかった』『聞きやすかった』とほとんどが応援メッセージでホッとしました。レース直後はマイナスな気持ちしかなかったのですが、たくさんねぎらいの言葉をいただいて、徐々に前向きになれました」

たまたまレース実況をした数日後に、仕事の一環で美浦トレセン(競走馬を調教する施設)に取材に行ったところ、うれしい出来事にも巡り合ったという。

「トレセンに取材で行った際、木村哲也さんという調教師の方が声をかけてくれたんです。その木村調教師は、私が初実況で上手く馬名が思い出せなかったメジャーレーベルを管理している方で、『馬房にメジャーレーベルがいるから会いにおいでよ』と誘ってくださったんです!

初めて実況したときの勝ち馬メジャーレーベルと対面できることに
初めて実況したときの勝ち馬メジャーレーベルと対面できることに

私が実況しているのを把握してくれているだけでなく、わざわざ馬房に呼んでくださって感激でした。そこでメジャーレーベルと初対面して、一緒に写真を撮らせてもらったんです。すごく人なつっこい性格で、私が横に立ったら腕にスリスリと頬を当ててくれて、とってもかわいいかったです。

しかもその後、私が実況デビューしたレースで、メジャーレーベルがつけてたゼッケンを、ルメール騎手のサイン入りでくださったんです! 普通だと勝ったレースのゼッケンは、馬主が持って帰るのですが、木村調教師がわざわざ馬主さんにかけあってくださって。競馬ファンからしたら宝物ですし、応援していただいているような気持ちになり、とても励みになりました」